「いつも不安な人」の驚くべき成功力ー心理学の発見
いつも自信に溢れていてポジティブ、何事にも「きっとうまくいくよ!」とどっしり構えられる方って、とても逞しく思えますよね。かなり心配性の自分自身、そんな楽観的な人のことをとても羨ましく思います。
一般的に「不安」とはよくないもの、対処すべきものとして考えられがちです。不安を抱いている人は、自分に自信がなく、成功にも縁遠いように思われがちです。
しかしある心理学者の研究から、不安を感じやすい悲観的な人は、楽観的にものごとを捉える人とは異なる、驚くべきパワーの発揮の仕方をしていることが明らかになりました。
パフォーマンスは、実は同等ー違うのは自信だけ
心理学者のジュリー・K. ノレムによれば、不安への態度には二つのタイプがあるといいます。
一つは「戦略的楽観主義」。これは、状況における最高の結果を予測し、取り乱すことなく冷静に、目標を高く設定することです。
例えば、大事な取引先との商談が控えている時、「この商談は大成功するに決まってる。取引先は、私が作成した緻密なプランに感銘を受けるだろうし、何よりこのプランを作成した私のことを気に入ってくれるに違いない!自信を持って、聞き手をあっと驚かせるプレゼンをするぞ!」と意気込んでいる状態などが良い例でしょう。
もう一つは「防衛的悲観主義」。こちらは、状況における最悪の結果を予測し、わき起こる不安に追い立てられるように、起こりうるあらゆる悪い事態を先回りして予測しておくことです。
先ほどの商談の例で言えば、「この商談は最悪な結果に終わるに違いない!取引先は、きっと産業構造が大きく変わろうとしてることに危機感を抱いている。それに競合A社が行なっているアプローチへの対抗策も質問してくるに違いない…もしかすると、そもそも通常時ではなく非常事態におけるプロセスについて把握したがるかもしれない!」…このように、取引先から迫られるであろうクリティカルな質問で頭がいっぱいになっていることでしょう。
さて、ここで質問です。
どちらが高いパフォーマンスを発揮すると思われますか?
おそらく、多くの方が「戦略的楽観主義」の方が高いパフォーマンスを発揮しそうと思われるのではないでしょうか。
ジュリー・K. ノレム氏の研究によれば、なんと両者のパフォーマンスはほぼ同等であることがわかっています。
ただし、両者の自信のレベルは異なることがわかりました。分析的課題、言語的課題、創造的課題において、「防衛的悲観主義」の自信レベルは「戦略的楽観主義」よりも低いことがわかっています。たとえ自信は低くても、結果的な成果は同等である…不安に陥りがちな方にとって、驚くべき嬉しい結果ではないでしょうか。
悲観主義には悲観主義なりのやり方がある!
ジュリー・K. ノレム氏はこのような実験を行いました。
集中力と精度が要求されるタスク(製図)の作業を被験者に行ってもらいます。あるグループは「きっとうまくできるよ!」と励まされ、他のグループは特に励ましの言葉を受けないまま作業に取り掛かります。
結果を比較すると、防衛的悲観主義の人たちはなんと、励まされなかった時の精度の方が29%も高くなっていたのです。ちなみに、戦略的楽観グループに関しては、励まされた方が精度が14%向上していました。
他にも、防衛的悲観主義の人たちにダーツを投げてもらう実験をすると、実験前に悪い結果になることを想像してもらった方が、良い結果を想像してもらうよりも実際の命中率が30%も向上することがわかりました。
このように、人間は思考のタイプによって、パワーを発揮する条件が異なるのです。一般的に、励ましの言葉を送るなど、うまくいくことを想起させることが成功の秘訣のように思いますが、防衛的非観主義の人たちについて、必ずしもこれらの条件付けは成立しないことが明らかになったのです。
一体どのようなメカニズムが働いているのでしょうか。
防衛的悲観主義の人たちは、不安をモチベーションに変えています。最悪の事態を想像しつつ、なんとかこの大惨事を引き起こさないようにと、様々なディテールについて思考を巡らせ事前に備えているのです。この備えている意識によって、事態をコントロールしていると感じることができるといいます。防衛的悲観主義者が直面している不安は、闇雲なエネルギーの消耗ではなく、現実への丁寧な向き合いと、徹底したリスク管理の計画から生じたものと言えるでしょう。
仮にあなたが悲観主義だとして、無理に楽観的になろうとする必要はないということがお分りいただけたでしょうか。
ただし、悲観主義がうまく行かない時もある
注意しなければならないのは、悲観主義のアプローチにもうまくいかない時がある、ということです。
何か行動を起こそうか迷っている時、つまり十分な意思が固まっていない時は、ネガティブに考えすぎてはうまくいきません。決断ができていない状態でネガティブなことを考えすぎると、「生命を守る」という原始的な本能があなたの心に強いブレーキをかけてしまいます。
一方、決断がすでに下っており、あとは準備してやるだけ、という状況においては、心に浮かぶ不安に蓋をせず、積極的にその不安と向き合うことでパフォーマンスが高まる可能性があるのです。その不安は、様々なリスクに先回りしてプラニングされており、その計画はあなたが素晴らしいパフォーマンスを発揮する上できっと役に立つからです。
不安をパワーに変えるコツ
最後に、不安が勇敢なパフォーマンスの邪魔をしてくる時の、とっておきの対処法をお教えします。いくら不安が悪いものではないといえ、誰しも聴衆を前にマイクを持つ手の震えを止めたいと思われるはずです。
例えば大事なプレゼンの前、震えるような不安を感じて仕方ない時、ある言葉を声に出してみて欲しいのです。「私は興奮している!」という言葉を。
ハーバードビジネススークルのアリソン・ウッド・ブルックス氏によって、このような研究がなされました。急にスピーチを依頼される、人前でカラオケを歌わされるなど、強いストレスを与える課題を行う前、「私は落ち着いています/不安です」「私は興奮しています」のいずれかを声に出して行ってもらいます。すると、「私は興奮しています」と声に出したグループのパフォーマンスが、そうでないグループを大きく上回ったのです。
恐怖や不安は非常に強い感情で、抑え込むことが非常に難しくなります。パフォーマンスの直前にこの感情に飲まれそうになった時は、感情自体に蓋をしたり(私は落ち着いてる、と嘘をつく)、不安と真正面に向き合う(私は不安です、と認める)よりも、同じく強烈ながら異なる感情にすり替える(私は興奮している、とすり替える)ことで感情というエネルギーを効果的に使うことができるのです。
おわりに
自他共に認める心配性な私にとって、この研究との出会いは大変な救いになりました。何かにつけ前向きにいることを推奨される世の中ですが、悲観主義者には悲観主義者なりの成功法則がある、ということです。不安に喰われず、不安を使ってやる心意気で、自分の不安を乗りこなしていければと思います。
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