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無意識に、あなたを操るものの正体

「同じ失敗をしたあいつが、ケロリとしている理由」では、私たちの感情を引き起こすのは、出来事そのものではなく、その解釈である、ということを明らかにしました。ここへさらに、レジリエンスに関する重要な発見を掛け合わせていきましょう。

あなたを操る「思考のクセ」

長年の研究によって、レジリエンスのある人とない人の違いにおいて重要なのは「感情」であることが明らかになりました。〔アーロンベック/ ペンシルベニア大学〕

さらに、人の「思考のスタイル」こそがその人のレジリエンスを決定し、最終的にはその人が人生においてどの程度うまくやっていけるかを決定づけているという事も分っています。〔カレン・ライビッチ / ペンシルベニア大学〕

つまり、この感情を引き起こす物事の解釈、「認知の仕方」こそが、レジリエンスを左右する大きな要因なのです。

前章でABC分析をご紹介しましたが、この「考え方/認知の仕方(B)」というのは、自分ですら気づかないほど、瞬発的かつ自動的に発生し処理されています。そして、この物事の捉え方/ 認知の仕方には、個々人なりの傾向、つまりクセがあるのです。この「思考のクセ」を知ることが、レジリエンスを強化する第一歩となるのです。

思考の反射神経「ティッカーテープ思考」

ある出来事に対して、瞬間的にあなたの頭の中を過ぎる思考のことを「ティッカーテープ思考」と呼びます。ティッカーテープ思考は多くの場合、ある状況に対してあなたがどのような感情を抱き、どのように行動をするかを決定していますが、これはほぼ無意識のうちに生じています。

私たちは普段、驚くほどこの瞬間的・自動的に生じる思考に準じて反射的に行動してしまっています。そしてその反射的な行動は、「思考のクセ」によってあなた独自の方向へ傾向づけられているのです。

レジリエンストレーニングで目指すのは、瞬間的に生まれるティッカーテープ思考の言い成りになるのではなく、状況に対してより適切に、そしてより現実的に対処するスキルを身に付けることです。そのため、レジリエンストレーニングの多くは、このティッカーテープ思考にアプローチします。つまり、まずは自分のティッカーテープ思考を捉えることがとても大切なのです。自分を変える為には、自分が無意識のうちに自身に投げかけている言葉を捉える必要がある、という事です。

ティッカーテープ思考は、「なぜ思考」と「次は何思考」の大きく2つに分けられます。


ティッカーテープ思考① 「なぜ思考」

なぜ思考とは言葉の通り、「原因は何か」を探る際に発動する思考です。私たちは普段、この「なぜ」の問いに対して、以下3つの軸によって答えを探していることが明らかになっています。

ー個人的「自分」vs「自分ではない」
ー永続的「いつも」vs「いつもではない」
ー汎用的「全て」vs「全てではない」

人は「なぜ」の問いに答える際、何度も同じ方法で物事を説明しようとする傾向があるといいます。〔マーティン・セリグマン/ペンシルベニア大学〕まさにこれが、「思考のクセ」の正体です。

もう少し具体的な例を見てみます。

例えば、怒った表情で廊下の向こう側からこちらに向かってくる上司の姿が目に入ったとしましょう。その瞬間、あなたはどのように感じるでしょうか。少し考えてみてください。

あなたの頭に浮かんだティッカーテープ思考は、以下2つのどちらにより近いでしょうか。

(A)「私が提出したレポートがあまりにお粗末で憤りを隠せないんだ。また彼を不機嫌にしてしまった!彼一人とすらうまくやれないのなら、どの会社に転職してもまた上司とうまく行かないに決まっている…」
(B)「どうやら彼は虫の居処が悪そうだ。またクライアントから無茶な要求を求められたのだろうか。いずれにせよ、今週末は休日返上で働くことになるかもな…しばらくは、チームのみんなもピリピリすることになるかもしれないぞ」


(A)に近いと思われた方は、典型的な「自分・いつも・全て」思考のクセがあるかもしれません。

ー彼の機嫌が悪いのは、自分に原因がある(レポートの出来が酷い)
ー自分はいつもこの失敗を犯す(また彼の機嫌を損ねてしまった)
ーこの状況は環境を変えても変えられない(転職してもうまくいかない)

まさか、そんな大げさな、と思った方もいるでしょう。しかし、実際の状況に直面した瞬間、あなたの頭の中には程度はあれ、このような思考が駆け巡っている可能性があるのです。


(B)に近いと思われた方は、「自分ではない・いつもではない・全てではない」思考の傾向が見られます。

ー彼の機嫌が悪いのは、自分以外に原因がある(クライアントの要求)
ー忙しいのは、極限定された期間のこと(今週末は休日返上かもしれない)
ーチームの悪い雰囲気は、上司の機嫌次第(しばらくチームがピリつく)

一見合理的に見えますが、状況によっては責任転嫁にも聞こえる可能性もあります。


思考のクセというのは、厄介なものです。
私たちは、生きた長さの分だけ自分の思考のクセを育て上げてきており、その思考のクセである種の「成功体験」を積んできているとも言えます。

例えば、「自分・いつも・全て」思考の人は、あらゆる出来事に対して自分が怒られる可能性を探し、心の準備をする事で、衝撃を受け止める体勢を整えているのかもしれません。

はじめのうちは、自分なりの物事の捉え方を変えることに、多少なりとも抵抗感を感じる方もいるかもしれません。しかし、自分の思考のクセを客観的に知ることは、レジリエントな思考を保つ上でとても役に立ちます。実際、私自身は、この思考のクセに気づいて初めて、いかに自分を不必要なまでに怯えさせ、生きづらくさせていたかに気づくことが出来ました。

次回は、私を苦しめていた「なぜ思考」にまつわる個人的なお話をしますので、興味のない方は読み飛ばしてください。

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お読みいただき、ありがとうございました。 この文章があなたの心に響いたら、嬉しいです。