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静かな運動、運動の静けさ、そして美しさ〜緊張と弛緩の繊細な調和〜
どこまでも広がる地平線や、静かな時の中に浮かぶ水面。
眺めているうちに、地平線や水面の静けさが伝播して、波立っていたであろう心が次第に静かに、平らになってゆく。
波がおさまってゆく様に、静けさを見出す。
ふと、静けさは「静止」を意味するのだろうか、と思う。
きっとそうではないのだろう。
朝日が昇る瞬間の水平面、次第に明るさを増して輪郭が膨らみを見せても尚そこには静けさがある。
波一つ立たない水面が見えていたとして、たえまなく湖底から水が湧き出ているのならば、湧水の運動が水から水へと伝わり、勢いを弱めながらも水面にまで伝播しているのかもしれない。
日常に目を向ければ、ゆらぐことなく軽やかに物を運ぶ所作もそうかもしれない。
「静かな運動」には、緊張と弛緩の繊細な調和が満ちている。
そして、人はそこに自然と「美しさ」を見出しているのではないだろうか。
都市や建築のスケールを持つ物質で、絶対的な水平面を形成する物質は、水だけである。都市景観は、そのほとんどが水平方向への視線よりも上で、つまり仰角線で、展開されている。眼球運動の容易さの上では、それより下の方、つまり俯角域、が見易いとされている。すなわち、仰角域の景観は観察者に強い緊張を強いることになる。水平な水面による景観だけは、高橋鷹志が指摘するように、そうした都市景観の中にあって、常に俯角域にある。それは生理学上、見易い視覚域である。
I・ウォルフェは、水面の平坦さ(flatness)を、「視覚的な休息」(visual relief)としてとらえている。都市の宿命的な狭さの中に住む人々にとって、大きく広がる純粋な平面は、安らかな休息を与えるものとなるようである。水平面状の水形態が指向する水のイメージは、水平な面、空間に基盤を与える水平面、穏やかな水平面、広がる面、空間を広げる面、空間を方向づける線、二空間を併置する面、の七種類に代表させることができる。