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有機的なつながりの奥底〜速くまっすぐ遠くへ。ゆっくりしなやかに近くへ〜

生物の生命活動の根幹を成す「有機的なつながり」は「物理的なつながり」と「情報的なつながり」をミクロな一つひとつの細胞が両立することで実現しているのでした。

私たちがイメージする、いわゆる「機械」は様々な部品の組み合わせで構成され、部品と部品が協調して動作、機能しています。

その制御は、各部品がどのような状況・状態にあるのか、どのように動作しているのかを各種センサーで感知し、感知したデータ・情報を中央演算装置(CPU)で処理して、最適な状態を維持する、あるいは実現するように部品に対してフィードバックを行うことで成り立っています。

脳や腸など、各臓器が固有の機能を持ち、それらを組み合わせている意味で「動物型」と言えるかもしれません。

近年ではエッジコンピューティング(エッジは端の意味)、つまり中央で情報処理するのではなく末端で情報処理し、部分と全体、それぞれの状態の最適化を図る制御も進んでいます。

これは環境からの移動ではなく、環境への適応を中心としている「植物型」と言えるかもしれません。細胞一つひとつが自律的に機能するモジュールであり、ゆえに植物は全体が切り離されても、分割してもそれぞれで生き続けることができるわけです。

昨日、細胞が物理的なつながり、情報的なつながりを両立していると学んだ後も思いを馳せていると、動物や植物を問わず「細胞の協調」とは「連続的なエッジコンピューティングなのではないか?」と思うようになりました。

機械のエッジコンピューティングにおいて、状態を感知するセンサーは部分部分、要所要所であり「離散的」である一方、生命は数多の細胞の一つひとつが物理的につながり、情報的にもつながっている。その意味で「連続的」だなと思うわけです。「なめらかに」つながっている。

では、そのなめらかさ、なめらかな情報の受け渡しはどのように実現しているのか。無数に張り巡らされた神経系や血管がその役割を果たしています。

場所間の移動をなめらかにする道路。速く直線的な「高速道路」とゆっくり小回りが効く「一般道路」が組み合わさることで移動のなめらかさが実現しています。

車両による移動だけでなく、飛行機などでも同様です。物流におけるハブ・アンド・スポーク(Hub and Spoke)と呼ばれる方式があります。中心拠点(ハブ)に貨物を集約し、拠点(スポーク)毎に仕分けて運搬する輸送方式です。モノの流れ、ヒトの流れ、物質の流れ。

「速く真っ直ぐ遠くへ。ゆっくりとしなやかに近くへ。」

生物、無生物を問わず生命的な現象、流れの中の「なめらかさ」に共通するパターン。人と人とのなめらかなつながりにおいても同様のことが言えるのかもしれません。

カドヘリンが単なる糊ではないことがわかりましたが、細胞にはそれ以外にも相互のコミュニケーションをする装置が大別して三種類あります。第一は、隣同士の細胞間での物質のやりとりの時に用いられるギャップ結合です。図に描いたように細胞膜の間にコネキシンと呼ばれるタンパク質が入り込んで二つの細胞をつないでいます。こうして細胞はすべてつながりながら、物をやりとりします。

中村桂子『生命誌とは何か』

二つめは、ある細胞が分泌した物質が血流などの体液によって流れ、離れた細胞にも影響を与える場合です。内分泌系(ホルモン)による制御はこうして行われます。この場合、制御される細胞の側に受容体があることが重要です。受容体によってホルモンの作用を受けた細胞ではさまざまな反応が起き、隣接細胞との間にギャップ結合をつくって物質を送り込んだりします。こうしてホルモンの影響は遠くの細胞に及び、しかもその付近の細胞に行きわたります。

中村桂子『生命誌とは何か』

もう一つ、神経系での情報伝達のやり方があります。神経細胞は、特徴のある形で、長い神経線維を電気信号が走って体中に外界の刺激や脳からの指令を伝える役割をしていますが、この信号も最終的に相手の細胞に伝わるところでは、神経伝達物質を出して相手細胞の受容体を刺激するわけです。それにしても神経細胞の細胞体で合成された物質を一メートルを越える距離の神経末端までどうやって運ぶのか。この秘密は東京大学の広川信隆先生が解きました。神経繊維の中にちょうど高速道路のようにアクチンというタンパク質でできた線維が通っており、その上をモーター分子という分子が必要な物質を運んでいくのです。細胞はよく都市に例えられますが、こういう場面を写真で見るとまさに都市のような気がします。

中村桂子『生命誌とは何か』


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