見出し画像

私たちは「毎日新しい道を歩いている」ということ。

『アルケミスト 夢を旅した少年』

大きな変化が訪れたとき、言葉の一つひとつを自分の内側にスッと染み込ませてゆくように。何度も読み返したくなる、大切な一冊です。

ブラジルの作詞家、小説家であるパウロ・コエーリョ氏による小説です。羊飼いの少年が宝物を探す旅の中で、さまざまな出会い、出来事から多くを学んで成長してゆく物語。

少年は起こる出来事の中に「予兆」を感じ取るのですが、その感性を支えているのは「毎日の中に新しさを見出し、新鮮に感じる」ことです。

毎日は「変わりなく繰り返される」ものなのでしょうか。もしも変わりなく繰り返されるものであるならば、「未来は過去の延長線上に描かれる」ことになります。

事を「何かと何かのあいだで起こる相互作用や関係性」と捉えるならば、「毎日起こる出来事が変わらない」とは一体どのような状況なのでしょう。

物理学において物体間に働く「万有引力」の法則(F=G✖️Mm/r^2)を例に考えてみます。ここで、Gは万有引力定数、Fは物体に働く力、Mとmはそれぞれ物体の質量(≒ 重さ)、rは物体間の距離です。

二つの物体が「力Fで互いに引き合う」という関係性を表現しているわけですが、たとえばMとmをそれぞれ2倍、距離を2倍にしても、引き合う力Fは変わりません。

互いに引き合う力(関係性)は変わらなくても、事を成す「物」の性質(質量や距離)を変えることはできます。

もしも毎日起こる出来事が繰り返しのように感じられる、新鮮に感じられないのだとしても、「私自身は毎日変わっている」とするならば、変わらないことをモノサシとして「自分自身に新しさ、変化を見出してゆく自由・余白」があるように思うのです。

外側ではなく、内側に新しさを求めてゆく。それが毎日に新しさ、新鮮さを見出す鍵ではないでしょうか。無限性は何も自分の外側だけではない。自分の内側にも等しく無限が広がっていると思うのです。

地平線が赤く染まった。その時、突然、太陽が顔を出した。少年は父親との会話を思い出して、幸せな気持ちになった。彼はすでに多くの城を見、多くの女たちに出会っていた。(しかし、何日か後に会うことになっている少女に匹敵する者はいなかった)。彼は一枚の上着と、他の本と交換できる一冊の本、そして羊の群れを待っていた。しかし、最も大切なことは、少年が日々、自分の夢を生きることができることだった。もし、アンダルシアの平野にあきてしまったら、羊を売って、船乗りになることもできた。海にあきてしまう頃までには、多くの町を見、他の女たちに会い、幸福になる他のチャンスにもめぐり合っているだろう。神学校では、僕は神様を見つけることができなかったと、朝日が昇るのを見ながら、少年は思った。

パウロ・コエーリョ『アルケミスト 夢を旅した少年』

少年は、できるだけまだ通ったことのない道を旅するようにしていた。彼はその地方を何度も訪れたことがあったが、今まで一度も、その見捨てられた教会に行き当たったことはなかった。世界は大きくて、無尽蔵だった。しばらく羊たちに、行き先を自由にまかせておけば、彼は何かおもしろいものを見つけ出した。問題は、羊たちは毎日新しい道を歩いているということに、気がついていないことだった。彼らは新しい場所にいることも、季節の移り変わりさえも知らなかった。彼らが考えることは、食べ物と水のことだけだった。

パウロ・コエーリョ『アルケミスト 夢を旅した少年』

少年は太陽の位置をもう一度たしかめながら、夢が実現する可能性があるからこそ、人生はおもしろいのだ、と思った。そして、歩く速度を早めた。彼はその時、タリファに夢を解釈してくれる老女がいることを、思い出した。

パウロ・コエーリョ『アルケミスト 夢を旅した少年』


いいなと思ったら応援しよう!