息子がママと呼べた日
息子についてうれしいことがひとつあると、その日の残念な出来事は息子と合わせて流れさってしまいます。まあ、そういう生活がいいよね、というだけなのですが。
-----
習得 山口勲
ごはんのかわりに下くちびるの裏を噛んだ
昨日から数えて四回目とこぼしていたら
息子が妻のことをママと
二回続けて呼べた
すこし真面目な顔をしている息子は
昨日まで
妻のことをパパと呼んでいた
にこにこしながら
親のことはパパと呼ぶのだと思っていたのかもと
いまさらあたらしい仮説をつくる
呼んでいい言葉を殖やした二歳の息子
噛んでいい場所を殖やした三十五歳の歯
並べてみると
できることはやっていいことと関係なくひろがっていく
いつか自分自身を食い破るのではないかって
息子を見つめてしまうそしてその僕の目が
巣立つ日に彼が見るのとおなじ目だと気づく