部屋 第5話
「確かに良い案だとは思う。でもこれじゃ通せないぞ。しっかりと現状把握をしたうえで、その根拠を持ってこい。いつもおまえにはそれが足りない。やろうという意思は感じるし、行動力もある。あとは現状をしっかりと把握して、本当の問題を見つける努力をしろ」
おれは目が覚めた。夢を見ていた。
上司に改善提案をして指摘を受けている場面だった。
実際に言われているようなことが夢に出ていた。
現状把握が足りない。根拠がない。これがおれの弱みだと。
逆に強みは行動力だと。
おれは感覚で物事を進める傾向にある。
これをしたらうまく行くだろうという感覚。でも仕事はそうは行かない。
入念な現状把握をして、問題を特定し、その問題を解決するための策を練らなければならない。このプロセスがおれは苦手だった。
「なんで部屋に閉じ込められている状態で仕事のことを考えなければいけないんだ」
おれは体を伸ばし、深呼吸をした。
眠気は無くなっている。白い壁に囲まれた部屋は相変わらずだ。
でも何か違和感を感じた。
壁が近くなっている。
起きた時には気がつかなかったが、部屋が狭くなっている。
ふと床を見るとえんぴつと四角い包みが見えた。
包みはよく見ると、A4サイズのコピー用紙の束だった。
えんぴつの先は削られているが、丸みを帯びていた。
削ったあと、意図的に丸くしたような印象を受けた。
意図的に。
この想像はおれをひどく混乱させた。
誰かがこの部屋に入ってきて、えんぴつとコピー用紙を置いていった。
そしてえんぴつの先は意図的に丸くしている。
やはりおれがこの部屋に来たのは何らかの理由があるということだ。
えんぴつとコピー用紙がそれを証明している。
何者かの手によって、おれはこの部屋に閉じ込められている。
そして最初に見たときよりも、周りの壁は近くなっている。
それが何を意味するのか、今のところ分からない。
おれは包を剥がして、A4用紙を一枚取り出した。