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想像と少し違ったけど、ほっこり素敵な映画 『パリタクシー』

フランス映画の『パリタクシー』が上映前から気になっていた。

フランスでタクシーの映画ときたら、ずばり『TAXi』という映画が思い浮かぶ。
フランス映画のヒットメーカー リュック・ベッソンが制作・脚本のカーアクション映画。
スピード狂のタクシー運転手ダニエルが改造プジョーでぶっ飛ばす痛快な作品だが、コメディ要素もふんだんに盛り込まれていて、勝手にジャンルを作るとすると
「痛快コメディカーチェイスアクション映画」
とでも言いたいそんな映画。

この『TAXi』は大ヒット作となりシリーズ化されるのだけど、
今回の『パリタクシー』もきっとそんな要素があるんではないかと勝手に想像していた。
ところがどうだろう?
映画がしばらくすると、どうも想像していたのと違う感じで、
「あーぁ、外れだったかなぁ」と想いながらしばらくぼーっと眺めていた。

だけど、途中から何なとなく横目観ていたのが、姿勢を正して正面から観るようになり、やがて物語に引き込まれていき、最後は
「やっぱりそうなるだろうな」と予想はしていた結末に落ち着くものの、
それでも少しうるっときて、さらにほっこりとなる、そんな映画だった。

上映時間も91分と最近では珍しい手頃な長さ。
これ以上だと余計なサブストーリーが入って来ざるを得ないだろうし、ギリギリの長さじゃなかったか。

物語は、悩み多きいつも何かに苛ついているどこにでもいそうな中年のタクシー運転手シャルルが主人公だ。
シャルルの人生はぶっちゃけ行き詰まっている。金もなく、免許も取り消し寸前でかなり追い込まれている。

ある日、遠方での配車の無線(てフランスでも呼ぶのか?)が入り、最初は面倒くさくて断ろうと思っていたが、とにかく仕事を選んでいられないことに気づきお金のため、と迎車へ行く。

向かった先は郊外の大邸宅が並ぶ地域。
一軒の屋敷の門前で1人の老婆がタクシーを待っていた。
老婆は上品な服を着たマダムで上から目線の物言いのマドレーヌ。
パリを通過して反対側の施設へ行ってくれという。
長いドライブになりそうなことを察して少しうんざりしているシャルルに、意外にもおしゃべりなマドレーヌは自分の話を語りだす。

原題は「Une belle course」
「美しい道程」とでも訳そうか。
マドレーヌが入居することになる施設までの道程は、マドレーヌ自身の人生を振り返る道行でもあった。

施設へ向かう途中、マドレーヌが語る数奇な人生の節目となる場所を訪ねる2人。
やがて、シャルルもそのマドレーヌの報われない人生に思いを馳せ、ほんの半日だけの付き合いだが、2人は心を通わせる。

なんて美しい物語なんだろう。
そして、なんて切なく悲しい物語なんだろう。
マドレーヌが若くして子供を授かり、結婚をした1950年代当時は男女間の格差は大きく、女性が自立して生きるという選択肢すらなかった時代だった。
そんな時代に、一人息子と自分の生活を守るために犯してしまったある事件が、親子を十数年もの間引き裂くことになる。
親子が再開した時は世界が東西に分かれてベトナムでの終わりなき戦いに突入していく時代で、マドレーヌは再開したばかりの息子を失うことになる。

そんな辛い人生を振り返りつつ、それでも自分は精一杯生きてきて思い残すことはないと人生の最後の一時を楽しい時間としてシャルルと過ごすマドレーヌ。

毎日をやり過ごさず、一期一会も大事に生きた方がよい。
そこにはどんな幸運があるかもしれない。
それが人生だから。

そんな風に勇気づけられる映画だった。

<了>




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