2024年再演版のヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』〜近未来はもうすぐそこまで
今日はヨーロッパ企画の公演『来てけつかるべき新世界』で下北沢 本多劇場へ。
公演の告知がありすぐにチケットを購入してからこの日を待ってました。
昨年10月の第42回公演『切り裂かないけど攫いはするジャック』以来なので、およそ1年ぶり。
今回の『来てけつかるべき新世界』は初演が2016年。
第61回岸田國士戯曲賞も受賞している作品で、僕は劇場では観られず、後日U-Nextで配信されたものを観た。
本作は舞台がディープ大阪の新世界で(あの、じゃりン子チエの舞台です!)全編関西弁バリバリで通されます。
そのためか他のヨーロッパ企画作品と比べてもセリフの面白可笑しさは群を抜いていて、その時の感想は「SFミーツ吉本新喜劇」。
公式でもSF人情喜劇と謳ってますね。
こんな面白い舞台は是非とも生で観たかったな。
それがこんな早くに叶うとは!
今作では金丸慎太郎、町田マリー、岡田義徳、板尾創路と客演も多く、初演版とどれくらいパワーアップしているのか楽しみでした。
だって板尾創路さんですよ、これは只事ではない。
ということで当日、開場時間ちょうどに下北沢駅へ到着。
首都圏生活36年にも関わらず馴染みのない下北沢も、本多劇場へは2度目なので迷わず到着。
慣れれば迷うこともないのですが、駅周辺が入り組んでいてよく分からなかったです(汗)
今回の座席は後ろから2番目O列の一番壁際。
本多劇場はそんなに広い劇場でもなく、階段状の座席なので見えないことはないのですが、舞台正正面を見るとちょうど視界に入る斜め前の座席の人が頭ひとつ飛び出るくらいの座高のため、全体が見えづらかったのが残念でした。
少し前にかがみ覗きこむようにすると見えるのですが、上演前の劇団員による前口上(注意事項)で、いけない行為とされたので我慢。
さて、舞台は前口上の後、開演時間の13時きっかりに始まります。
新世界の横丁。
昭和からそのまま置き忘れられたかのような一画。
串カツ屋にパーマ屋(美容院)、コインランドリーにスナック、舞台からは見えないですが奥には町中華屋もあります。
正面には新世界のシンボル通天閣。
幕間こそないですが、舞台は5つの話から成ります。
それぞれの話は
1. ドローン
2. ロボット
3. 機械学習(AI)
4. VR
5. マインドアップロード〜大円団
などの科学技術が今以上に進化して生活に入り込んでいく少し先の新世界の近未来での人情噺になっえいます。
8年前の初演舞台も大枠は変わっていないと思うのですが、これらのテーマは当時よりもずっと生活の一部になりつつあります。
8年前はドローンもロボットもAIも一般生活ではそんなには身近ではなかったですが、
それが今や少なからず何らかの形で関わっている人が増えていますし、
SFの世界の話だったVRですらApple Visionの登場で身近知名度としては一気に市民権を得ました。
ひょっとすると10年後にはマインドアップロードも当たり前の世界になっているかもしれません。
この作品で描かれる世界は人情〜人と人の繋がりがまず第一であって、古いモノをこよなく愛しているところがある取り残された人々です。
そんな彼らの中でも、新しいモノに飛びつく人がいて、また初めは怪訝そうに距離を置いていた人もひょんなことから新しい技術に触れてその便利さの虜になっていく人々がいたりします。
ですが、そうした近未来のガジェットに囲まれた住民たち、
VRを常に装着し、AIを搭載したロボット(または炊飯器!)と共生し、
見た目は新しいものだらけですが、人の人情には何ら変わりがないということ、
笑って、怒って、妬んで、悲しんで、
そうしたどうしようもないけど愛おしい生活が人間讃歌として高らかに描かれています。
ラストは亡くなったはずのお母ちゃんのライフログがマインドアップロードされたことにより、デジタル空間に展開され、新しい知能生命体お母ちゃんダッシュとして生き返る話があります。
おそらく相方を失って2Fの部屋に引き篭もり自暴自棄の生活を送っていたであろうお父ちゃんが一瞬でもお母ちゃんと会話をして、実体はなくとも宇宙のどこかで元気にやっていると分かったことから、現実社会に戻ってくる姿が描かれます。
自分の記憶をアップロードして生まれた知能生命体はそれはその人そのものなのか?
最後はそんな哲学的なテーマもぶち込んで来ますが、
そんな難しいこと考えんでも、楽しかったらええやんか
そんな開き直りとも取れる肯定感が、関西人ならではの能天気な「わろとけ、わろとけ」精神が
幸福な未来を、夢を見させてくれたと思います。
〈了〉