
ハンバート ハンバートの主題歌と一緒に楽しんで欲しい映画『ぼくのお日さま』
なんて素敵な映画なんだ!
それがこの映画を観終わった時の感想。
同名タイトルで主題歌にもなっているハンバート ハンバートの曲もすごく素敵で聴いてるだけでなんだか涙が溢れてくるような唄だったけれど、
この映画もまた違った意味で素敵な『ぼくのお日さま』だった。
ポスターにもなっている3人のショット(カバー画像)はアイスダンスの練習も佳境に入ってきた頃に「今日はここで練習をしよう」とコーチの荒川(池松壮亮)がさくら(中西希亜良)とタクヤ(越山敬達)を車で湖(そんなに大きくなかったので池かな?)が凍った自然のスケートリンクに連れて来たシーンのスナップだけど、
もうこの場面が本当に素晴らしい。
みんな心の底から楽しそうでキラキラしている。
特に若い2人、さくらとタクヤがフレッシュすぎる。
まだ青春時代にもなっていない、子供から脱皮しようとしているほんのわずかな小学校高学年のあの瞬間、あぁ若いっていいな、そう思わせてくれてもうニコニコしながら観てしまった。
この映画そのものが、そんな2人の今この時しかないという瞬間を切り取った奇跡のような映画だと思う。
特にタクヤ役の越山くん!君はなんてピュアが溢れかえっているんだろう。
映画撮影時は13歳だったというが、それから約2年近く経って映画公開後の舞台挨拶で15歳になった彼、背も10cm以上伸びて少年から青年になろうとしている越山くんには、もうこの映画のタクヤの面影はなかったんだよ〜!
そうなんだよ、あの瞬間だけだったんだよなぁ。
ヒロインのさくらを演じた中西希亜良さんもセリフはほとんどなかったけれど、スケートのシーンが可憐で、それはもうタクヤじゃなくても少年達はみんな好きになってしまうだろう。
美少女はまだここにもいたぞ、という感じです。
三井のリハウスの宮沢りえの白鳥麗子を軽く凌駕しちゃってます。
新鮮さとインパクトで言うなら『小さな恋のメロディ』のトレイシー・ハイドか。
だけど、そんなボーイミーツガールな明るいだけの映画じゃなかった。
ほろ苦い気持ち、そんな風を持ち込んできたのが池松壮亮演じたスケートのコーチの荒川で、本当にぴったりの役でしたね。
少年少女のスイートでキラキラなだけじゃない、ちょっとほろ苦いテイストを持ち込んでいたのが彼の役柄でした。
なるほどそういう事かと。
大人になって振り返ってみれば判る時が来るのだろうけれど、この時のさくらには理解出来なかったんだろうね。
ひょっとしたらさくらの初恋だったかもしれない憧れのコーチが、実はタクヤの事を好きだったんじゃないか、自分は裏切られた、なんだ、って。
そして思わず口に出してしまった「気持ち悪い」という言葉。
せっかく2人で息のあったアイスダンスができるようになってきて、バッチをもらうためのテストにも、さくらは来なかった。
「やっぱり、ぼくとやるのが嫌だったのかなぁ」
苦しいね、切ないよね。
だって、タクヤにはさっぱり意味が分からないから。
荒川もさぁ、ちゃんと言ってあげなよとは思ったものの、伝える言葉が難しいよね。
それが今の日本の事情だなって。
荒川は結局、生徒もいなくなってパートナーとも別れて遠くへ行くことになり、タクヤもあれだけ好きだったスケートも止めてしまっていたようだ。
野球もホッケーもなんだか乗り切れなくて全然上手くならなかったのに、これだけは夢中で取り組んだスケートだったのに。
それは、スケートを始めるきっかけとなり、アイスダンスのパートナーだったさくらがいなくなったからだろうか。
それとも、コーチの荒川がいなくなったからなのだろうか。
どちらだろうね。
だけどラストで中学に入学して荒川と再会した時に荒川にもらったスケート靴を持ってリンクへ向かおうとするタクヤ。
そこで、リンクから帰ってきたさくらにも偶然に再会する。
さくらに向き合ったタクヤ。
何かを言おうと最初の言葉をひねり出そうとしているタクヤのショットで映画が終わる。
このラストには賛否両論ありそうだけれど、僕はこれでよかったと思う。
このシーンがないとタクヤとさくらの2人は、小学生のままで永遠に別れたままだったから。
せめて中学生になって、ほんの1年ちょっとで何が変わるんだって話だけど、それでも余韻を残してくれたことで少しは救われたような気がした。
映画の大半が雪の積る冬の間のシーンだったけれど、このラストシーンは春のうららかな陽気の日で、彼らの未来も開かれたままで終われたというか。
本当に優しく胸に残る素晴らしい映画を観ました。
<了>