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東日本大震災を扱った山田太一ドラマ『時は立ち止まらない』
午後何気にテレビをつけたら中井貴一さんと柳葉敏郎さんが出ているドラマを放映していた。
他には樋口可南子さん、神木隆之介さん、吉行和子さん、倍賞美津子さん、岸本加世子さん、橋爪功さん、黒木メイサさん、渡辺大さん
錚々たるメンバーが出ている。
まさにカバー画像の両家対面らしき食事会のシーン。
いつのドラマだろう?
神木さんが若いな。
そんなことを思いながら出演者に惹かれてそのままずっと観ながら調べてみた。
2014年にテレ朝系のスペシャルドラマとして放映されたものらしく、山田太一さんが東日本大震災をテーマに書かれた晩年の脚本の1つらしい。
冒頭15分程度を見逃していたようだけど、これは絶対に観なければ。
***
全部無くなっちまった
何もかも流された
網も、船も、仏壇も、家も、車も、
ばあちゃんも、かみさんも、息子も、
いなくなっちまった
誰が悪いんだ
津波が全部悪いんだ
シナリオ本も手元になく、思い出しながら書いているのでかなり違っているかもしれないが、主人公の1人である橋爪功が言うセリフがある。
母親と奥さんと長男と、家も商売道具の船も網も全て流されてしまった年老いた家長。
銀行には金を預けずに金庫に入れて保管していたので、長年貯めた財産も全て流されてしまった。
そんな理不尽な仕打ちを、
簡単に受け入れるのではなく、
不公平な出来事だと、
納得しないでいる
そんな頑固な老漁師を演じる橋爪功が素晴らしい。
男ばかり残された浜口家の2人が柳葉敏郎、孫〜次男が神木隆之介。
亡くなった長男(渡辺大)と婚約していた西脇家の長女が黒木メイサ、父親が中井貴一、母親が樋口可南子、祖母が吉行和子。
父親(中井貴一)が地元の信用金庫の支店長をしており、家は高台にあったため震災でも被害を免れ、家族も全員無事だ。
そんな2つの対照的な家族を、これから親戚として関係を持つはずだった家族が震災後どのように立ち直っていくのかを描いた作品が『時は立ち止まらない』というタイトルのこのドラマだ。
実はこの家族は縁談で結びつくだけではなく、父親同士も中学時代の同級生であったことが冒頭の両家対面シーンで語られるが、
子供時代に何があったのか、どんなことがあったのか、なにか含みがあるようなのだが詳細については語られない。
最後になって判明するのだが、それは子供時代のいじめと復讐が背景にあったらしい。
(おそらく)都会から越してきた西脇家(中井貴一)と地元で漁師の浜口家(柳葉敏郎)。
浜口は田舎の子供なりに新しく転校してきた少年を色々と気遣って仲間として加えようとしていたようだが、半分都会っ子に対するやっかみあったのかもしれないが、その方法は乱暴で粗野で一方的だったため、それをいじめと捉えて学校へ行くことも嫌になっていた少年浜口。
ある日、ひょんな偶然から町の不良グループをたきつけて西脇に仕返しをするような事件が起きてしまう。
お互い、当時のことは覚えている。
しかし、それは40年以上も昔の子供時代のことと頭ではわかっているが、そう簡単には割り切れるものではない。
そんな事情も絡めながら、震災で出会うべくして出会った2つの家族のそれぞれの目線からのエピソードが積み重ねて語られていく。
東日本大震災を扱ったドラマや作品は数多く作られてきたが、山田太一さんでなければ書けないような、そんな視線にあふれたドラマだと思った。
個人の尊厳やこだわり、あきらめ、わずかばかりの希望。
特に橋爪功が演じる浜口家の家長がやはり印象的だった。
何もかも失って自暴自棄になっていた彼は、時が経つにつれ、また西脇家と関わりを持っていくに従って、少しづつ自分の身に起こった事実を受け入れていき、心を開いていくようになる。
とても重たいテーマだけど、ところどころクスリと笑わずにはいられないシーンもちゃんとあるのも救いだった。
特に、ラストの方で父親同士の中学時代に何があったのかが明かされるシーンでは、中井貴一と柳葉敏郎に一発づつ殴り合って終わりにしよう、というところから中学生のような取っ組み合いになり、最後にはお互い笑う。
そのシーンは本当に可笑しかったし素敵だった。
素晴らしいドラマでした。
脚本も読んでみたく、シナリオ本も購入しました。
<了>