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拙い読書感想文「同志少女よ敵を撃て」逢坂冬馬
休日の日に少しずつつまむように読みお盆休みをいただいたのでその間に読み終えることができました。
断片的にしか覚えていないのですがその断片をアウトプットできればと思います。
読み始めたきっかけ
僕の趣味は読書で大体週に最低1冊、月に平均4~5冊ほど本を読んでいます。
今は電車での通勤時間が長いので通勤中や遊びに行くときの移動中、会社の休憩中などの隙間時間で文庫本を読むようにしています。
本書は文庫本ではないので寝る前や休日の時間し少しずつ読んでいました。
本屋さんには月に1~2度くらい行くのですが、その中で平積みになっている本書を度々目にしていました。
移動中の読みやすさを重視していたのでしばらく購入することはありませんでした。たまたま人に借りることができて少しずつ読み始めました。
本書のイメージ
平積みにされていたのでカバーイラストはよく覚えていました。
美少女だなぁと。
このイラストを描いた雪下まゆさんも美人で同い年でした。
読む前はこの少女が戦争に駆り出される話かなというくらいに思っていました。
今もロシアとウクライナで戦争が起きていることもあってマイナスイメージが強く、すすんで読む気持ちにはなれませんでした。
義務教育で第二次世界大戦の悲惨さも学びましたしね。
どんな理由であれ人を傷つけることは悲しいことです。
読んでみて
表紙のイメージ通り、「努力したら必ず報われる!」とか「チームワークっていいよね!」というような明るいかつ前向きなポジティブ全開の話ではなかったです。
明るいか暗いかで聞かれると暗いですが、「暗い」話のひとことでは表現できない。暗いけれど前向きというか。
たまたま戦争に巻き込まれた田舎の村出身の1人の少女とその周りの人たちの考え方や生き方。
戦争という環境に置かれた中で主人公である少女の心情の変化が読んでいるこちらにもダイレクトに伝わってきて、ぞっとするような場面も多いです。
「だめだよ!思いとどまって!」や「それはそう思っても仕方ないよね。」など主人公の傍で止めてあげたいと思ったり、時には主人公の少女に同調したりと感情が本の中の物語に連れていかれるような内容でした。
物語を読んでみて思ったこと
ここからは作中の内容も入ってきます。ネタバレ注意です。
読んでいない人じゃないとわからない部分もあるかと思います。
最初の最初は主人公のセラフィマが村でほのぼの?と生活しているシーンが続きます。大きな前振りのように…。
村の同世代の少年ミハイルとゆくゆくは結婚するのかもという書かれ方はしていましたが作中でセラフィマが彼に好きといったような好意を寄せている描写はありませんでした。「村で1番やさしい男の子」
そういう書き方が何度かされていただけでした。
村に攻めてきたドイツ軍。
村民はパルチザン(正規の軍ではない村民が村民のふりをして敵に襲いかかる集団)だとみなされ村民全員殺されます。実際にはパルチザンではないことはドイツ兵も薄々わかっていたが腹いせに襲った。
その様子を森に母親と狩りに出かけていたセラフィマは木陰から目撃してしまいます。
母親が猟銃で銃を構えたドイツ兵を撃とうとしたところ後ろから射殺。
セラフィマはドイツ兵に村のとある家に連れていかれます。
奥から少女と女性の死体を持ってドイツ兵が現れます。
その女性たちはセラフィマの知っている人達でレイプをされた後に殺されました。
そこへロシアの赤軍が攻めてきてドイツ兵は撤退しセラフィマの命だけが助かります。
ミハイルは少し前の時期に軍に招集されていて村にはいませんでした。
セラフィマが連れてこられた家(たまたま自分の家だった)に赤軍の女性兵士が来ます。
母親の死体を足で蹴り、家にあった家族写真もたたき割ります。
そして、「戦うか死ぬか」を問われます。
セラフィマはドイツ兵とこの女性兵士イリーナへの復讐を誓いイリーナの下で軍の教育を受けるようになりました。
ここまでのシーンが最初に感情がグラグラ動くところですね。
戦争、レイプ、愛する家族の死、愛する村人の死、愛している者への侮辱、セラフィマの目の前で起きているこの世のものとは思えない世界中の残虐のすべてをかき集めてきたような事柄。
セラフィマがその状況の中心に置かれてしまっているという深い絶望感。
絶望から深い憎しみへと変わり莫大な生きるエネルギーとして復讐心が生まれていく描写がすさまじかったです。
ここまでひどい状況に出くわしてしまうと絶望も生きるための活力になりうるのかと思いました。
隣で一緒に現場を見ているような感覚でした。
イリーナに兵を育てるための学校に連れていかれ、そこにはセラフィマと同じような少女たちがいました。
貴族であることにコンプレックスがある少女、戦争で2人の子供を失った女性、虐げられたコサック(民族のことかな)の誇りを取り戻すために戦う少女、遊牧民族として自由を手に入れるために戦う少女。
戦争中ですが休日にみんなで街に出かけようしたり、銃の腕は確かですが都会的な生活になじめず部屋の片づけも苦手でみんなと出かけるのにも抵抗がある少女がいたり、少しほほえましい場面もありました。
僕が衝撃だったのはドイツ兵ロシア兵に関わらず街を攻め落としたときに落とされた側の女性を犯すというところでした。
これは悲しいことに実際の戦争でも起きている事実だそうです。
物語の後半あたりで結構頻繁にこういう場面が出てきます。
戦争中、いつ死ぬかわからない状況であると男の兵士は「戦利品」という形で女性を犯すのだそうです。ご褒美として。
お互いの軍の上層部はその状況を見て見ぬふりをします。
兵士が皆同じ行為をすることで団結し士気が上がるのだそうです。
また、やられた側はひどく相手を恨み復讐心で士気が上がる。
そういったことからそのような行為がまかり通っています。
セラフィマはその現実に直面します。
そこで自分の戦争における目的は女性の尊厳を守るためだと再認識します。
このどちらの軍の兵士も相手国の女性を平然と犯すという場面、それが普通にまかり通っているという状況には非常に憤りを感じました。
女性を物扱いしていることにも理性を保つことができていない兵士にもそれが現実の戦争でも起こってしまっているということにも。
物語の途中で偶然ミハイルに出会うのですが、そこでミハイルは「その状況が仕方ない」という内容をセラフィマに言います。
セラフィマが「あなたもそうなの?」と聞くと「僕は死んでもしないさ。」
と言うという場面がありましたが、嫌な予感は当たるもので見事なフラグでしたね。
衝撃のラストシーン。
ドイツ人女性に襲い掛かろうとしているミハイルをセラフィマが撃ち殺します。
女性の尊厳の為の戦いをしているという覚悟の下に。
感想
この本はすごく感情が動かされます。
ラストシーンは完全にセラフィマに感情移入していました。
ミハイルは「戦争が人を変えてしまう」と軍が女性を襲うこと自体を肯定する発言をしていましたが僕は逆じゃないかと思います。
人の中に「やられたらやり返す」とか「そういうものだから仕方ない」とかの感情が入り込んでしまうので周りに流されたりするんだと思います。
周りのせいにして自分では悪いとわかっていることも肯定してしまう。
現代社会でもありがちな問題だと思います。
その感情のノイズのようなものが大きくなっていって戦争に繋がるのではないかと思います。
自分を持つことの難しさや大切さを本書を通して改めて考えることができました。
本書では戦争が終わったらどうするのかという問いかけが何度かありました。
これは現代でいうと「仕事を辞めたら」や「今自分が置かれている状況がガラッとと変わったら」という問いに置き換えることができます。
その時に自分の芯をしっかりと持っていないと生きるのは大変だなと感じました。
ちなみに本書のセラフィマの故郷イワノフスカヤ村はドイツ兵に襲われましたが、実際にあったロシアのイワノフカ村は第二次世界大戦中に日本軍によって攻められました。
本書がイワノフカ村をモデルにしたかどうか僕のほうでは確認していません。ご了承ください。
悲劇発生の地 イワノフカ村訪問記 - 函館日ロ交流史研究会 | 函館日ロ交流史研究会 (hakodate-russia.com)
人間の性欲や復讐心の怖さが濃厚に描かれていたなと思います。
アヤやセラフィマなどの女性兵士が敵を撃ち殺しその数を競うように喜んで話していたシーンも怖かったです。
単なる数字に変換してしまうと人はここまで冷酷になれるんですかね。
戦争に巻き込まれたくないな。
まずは自分の身近な人を愛して大切にしていきたいと思います。
人は鏡なんて言いますもんね。
日頃どんなひどいことをされても人には当たったりしないように気をつけて生きています。
自分が嫌がることは人にもしない。
それが生きやすくなるうえでの一つのイメージなのかな。