
『鬱の奴らと呼べばいい』
時間とカネを持て余した
趣味の悪いオトコがいた
旨いモノは食い飽きたし
いいオンナは抱き尽くした
なにかもっと趣向をかえた
新しい娯楽はないものか
考えた
閃いた
精神を病んだ者…
あぁめんどうだな
鬱の奴らと呼べばいい
その鬱の奴らに
大金を渡したら
どうなるか
観察してみよう
そうだな
XX億円程度かな
鬱の奴Aに
XX億円を渡した
初めは訝しがったが
事情を説明すると
そういうことならと
Aは高級な服を買い
海外へ飛んで行った
その先でも贅沢ざんまいを
続けているらしい
すっかりAの鬱は
全快したようだ
まあそんなところか
カネ暇オトコはそう思った
続いて鬱の奴Bに
同じくXX億円を渡した
自分だけがこんな思いを
本当にいいんですかなんて
恐縮しているものだから
かまわないこちらの娯楽だ
むしろ申し訳ないと伝えたら
Bは友人や恩人を集めて
XX億円を分配していった
やがてタチの悪い知人とやらに
有り金をすべてかっさらわれて
Bの鬱はいままで以上に
深刻なものとなってしまったようで
またそれだけでなく
悪人のせいで
怪我まで負ってしまったというから
なおのことBには
申し訳ないことをした
気を取り直して
鬱の奴Cに
他と同じくXX億円を
元来頭の切れる奴で
ここぞとばかりに
そのXX億円を運用して
なんと10倍以上に膨らませた
Cはカネ暇オトコを訪ね
恩返しがしたいですと
カネ暇オトコは
そんなモノいらないと
つっぱねた
その後Cは運用だけでなく
実業も始め
悩みは多いながらも
日々充実しているらしい
そんな噂を聞いて
有意義なカネの使い方をしたと
カネ暇オトコ自身も
とても喜んだ
しかしなんだか物足りない
もうちょっとなにかこう
捻ったやつはこないか
そんな邪念をもって
鬱の奴Dに
やはりXX億円を委ねた
鬱の奴Dは目を輝かせ
これで鬱が完璧に治る薬が
買えますと喜んだ
鬱の奴に大金を渡したら
どういう風になるかの実験で
鬱が完治する薬を買うって
これは相当な重症だと
カネ暇オトコはあらためて
考えさせられた
ちなみにその抗鬱薬は
この国では認可されていないうえ
海外でも流通は稀
加えて諸物価高騰のあおりで
XX億円では
とても手に入れられない
高価な品になっていると
それを知ったDは
どこかへ姿を
消してしまったようだ
何か目新しい
痺れるような刺激はないかな
カネ暇オトコの退屈は
これから先も続く
(あとがき)
思考実験(とはいえネットとかの)で「鬱病は甘え、大金を手にしたら一瞬で治る」みたいのがあって、それを着想としたまでで他意はありませんよ。わたくしのメランコリーもXX億円あれば治るのかしらん。