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令和の大学生さんにも届いた!「保健室からの手紙」
退職後、noteの世界でそっと発信してきた「保健室からの手紙」。
縁あって私は毎年、大学の看護学科へ「学校保健」の講義に出かけているのですが、実はここでもほぼ同じ内容を取り上げ話をしております。
学校の保健室で出会ったたくさんの子どもたちから教えられたこと、その尊さを伝えたいのです…と。
医学部の看護学科において学ぶべき学校保健の領域は、管理面・教育面など多岐に渡りますが、試験に出そうな大事なことは大学の先生が事前に何時間かけて教えておられ、私は最後のまとめとして2コマを任されています。
任されているなんて書いて、自分で恥ずかしくなりました。…すみません。
毎年、講義の最初に言うんです。
「私の話は、あなた方の試験の点を上げることにはつながらないものです。それを今からみなさんは、200分聞くことになります。ただただ、子どもたちのエピソードをお伝えするだけなので、ま、ゆっくり気楽に聞いてくださいな。」
と。
医療系の大学に通う学生さんは、勉強と実習に追われて結構お忙しい。しかも来週からは試験期間。という中で、こんな講義を200分も今から聞けと?
大講義室で最初に見る学生さんの顔には、表情がありません。
淡々とペンを握るか、聞いた内容をそのまま記録しようとパソコンを開くか。
もちろん目が合うこともありません。
その雰囲気に、私も緊張&不安を感じながらスタートするのですが…。
子どもたちのエピソードをひとつ、またひとつ話すうちに、学生さんたちはペンを置き、パソコンを閉じ、目を見開いて、なんなら前のめりになってくるのでした。
響きあう…って感じでしょうか。
看護学科なので、もちろんほとんどの人が看護師を目指しておられます。だから学校保健については直接関係はない…はず…のスタートだった…はずなのに。
学生さんは、どんどん引き込まれていくのです。私の話に…ではなく、子どもたちの姿に。
「保健室からの手紙」に登場する月ちゃん、空くん、花さん。他にも純さんや雪ちゃんのケースなど。
子どもたちのリアルなエピソードから、学生さんたちはしっかりとその心に抱える苦しみや悲しみを感じ取ってくれます。
なぜか分からないけど、うつむいて泣いている学生さんまで。
看護師を目指している大学生120人と、養護教諭を退職した56歳の私。
何かの縁でご一緒することになり、ひとつの部屋で、時間をともにすることになる。
不思議だね。
でも、なんだか私たちみんな、今、同じ気持ちになったと思わない?
こうして200分は、あっという間に過ぎるのでした。
講義が終わっても学生さんたちは席を立つことなく、しばらく座ったまま、ひたすら黙って感想を書いてくれていました。
帰り際、担当の先生からいただいた感想用紙には、学生さんたちの思いがびっしり書き込まれ、裏面にまで溢れる人も。
無表情でスタートした数時間前がウソのようです。
学生さんに許可を得ていませんが、感想用紙から少し紹介させてもらってもいいかしら。許してくれるかな。
・思春期の子どもの心に向き合う覚悟に圧倒された。自分は看護師を目指しているが、人に向き合い寄り添う姿勢は同じこと。子どもたちのエピソードひとつひとつを忘れないで、これから出会う人すべてに生かしていきたい。
・勉強も難しくなって、自信を失っていた。自分の強みなんてないと思っていた。でも、そんなもの要らないと感じた。人が好きで、関わることが好きで、役に立ちたくて選んだ道だったことを思い出した。自分らしさを大切に人と向き合っていく。
・養護教諭になりたいと思う。保健室に身を置いて、子どもたちと生きていきたい。難しいケースや緊急時など、こわいけれど、自信もないけれど、養護教諭は1人ぼっちじゃない。チームを作っていくことも大事な役割。みんなで子どもを守りたい。
・進む道はそれぞれ違うが、人としてどう生きるか、どう人と向き合って生きていくか、深く考えさせられた。それは、子どもたちの姿から。
・教育を、次へつなぐ。これこそが学校保健の役割だと感じた。ヤンチャした子たちが今、立派に社会に出て親をしている姿、これこそが教育そのものだ。
・コロナ、コロナ、コロナの中で青春をつぶした。損するばかりで、いいことなんて、ひとつもなかった。この数年、そう思ってきた。でも、違った。そんなことない!ってことに気づいた。すぐそばに仲間がいて、色んな思いを分かち合って、一緒に生きてきたじゃないか。講義を聞いて、勉強したくなってきた。今までみたいに、試験のための勉強じゃない。人に向き合い役割を果たすための勉強を。そして、ひとつでも引き出しを増やして、色んな状況に備えたい。
・愛を出し惜しみしないで目の前の人に心を尽くす。出会いから学ぶ。この言葉を、忘れずに生きていく。
読みながら、泣けてきました。
令和の大学生さんたち、なんて素晴らしいんでしょう…。
というか、今を生きる若者たちの、純真さ。素直さ。一生懸命で一途な思い。秘めた熱い思いや願い。
この上なく尊いです。
どうかそれらすべてが、大切に守られますように。
守り育む仕組みができますように。
年に一度の大学訪問。
ここでもまた、心が震えるほどに教えられるのは、私のほうでした。