【第2弾】教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム「学校再開」オンラインイベントレポート
<イベント詳細>
■日時:2020年8月8日(土)15:00~17:30
■テーマ:学校再開
■参加登録者:122名
■参加地域:北海道〜鹿児島県
■話題提供者:
足立区教育委員会/定野司 教育長
京都府南丹市立園部中学校/國府常芳 校長
先日、ある友人の先生にコロナ禍での学校現場の動きについてヒアリングしていた際、「色んな提案が通ってすごいね、さすがだね」なんて話をしていたら「いや、一番は校長先生の英断」という返事が。「高野さん、やっぱり校長先生だよ」と。
そんな話を聞いていたのもあり、イベント内で交わされたある校長先生と主幹教諭の先生のやり取りに胸が熱くなりました。
それは、あるブレイクアウトルームでの1シーン。
校長先生同士がお互いの情報共有をしていた時のこと。ある主幹教諭の先生が
「せっかくなので私からもいいですか?」
と、ご自身の学校の状況をお話くださったことから始まりました。
私の学校は、校長先生が異動してきたばかりでした。
着任直後にこのような状況になり、当然スタートダッシュが切りにくかったと思います。
ただ、私の学校は休校期間中、教員がそれぞれ自走してくれたのを主幹教諭としても感じました。
なぜそれができたのか?と考えたときに、校長先生の4月当初のマインドセットが素晴らしかったことを思い出しました。
「子どもたち、保護者、地域の笑顔のために何事も動きなさい」と示してくれたんです。
それが教職員たちに落ちて、チーム一体となったんです。
それを受けて、今回の話題提供者の國府校長先生が次のようなお話をしてくださいました。
私は、今回Zoomも初めてで、TeamsもリモートもHPも初めて。
なので、あなたのような世代の先生が「こうやったらどうでしょう」と、様々な提案をして動いてくれたことが本当に嬉しかった。 修学旅行説明会の動画もHPにアップしていつでも観られるようにするなどしてくれました。
コロナ禍のピンチをチャンスにした教職員たちの力は素晴らしく、頭が下がる思いです。
日々の忙しさの中で、普段から校長先生と先生方がどれほど気持ちを伝え合えあっているかはわかりませんが、お互いの立場への敬意が交わされたやり取りからは、現場の様子も想像することができ、とても温かい気持ちになりました。
このような立場を超えたやり取りが生まれるには、お互いの背景を知ることが大切だと思います。
しかし、このコロナ禍でリーダーの立場である教育長・校長がどのような状況下で判断を下しているのかという事実が共有されることは、決して多くありません。
本レポートでは、そういった背景も含めお伝えしていきたいと思います。
そして、「教育長・校長プラットフォーム」のオンラインイベントは、今回、4回連続の第2弾です。
このイベントが、オンラインで「やってみる」を卒業し、オンラインで「深める」フェーズへ進化するための新たな工夫についても触れていきたいと思います。
ぜひ最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
1. 「つまずきをバネに」(足立区教育委員会・定野司教育長)
まず一人目の話題提供者は、足立区教育委員会の定野司教育長です。
*資料はこちら
足立区は東京都の北に位置するベッドタウンで、近年、人口は増加傾向にあります。また、就学援助率が全国平均や都平均と比べて高い地域でもあります。このような特徴のある地域における課題と、自治体として行ってきた実践についてお話いただきました。
まず、足立区では、区内で新型コロナウイルスの感染者が出た場合は逐一、公表しており、感染者の詳細や、公表に関する基本方針は足立区のWEBサイトからご覧いただけます。
このような前提があるため、区の方針に沿って子どもたちの安全の確保に努めているものの、具体的な情報が早々に出回ってしまうことから、人権をどう守っていくのか、子どもたちだけでなく、保護者や学校関係者にとっても生きた教材になっています。
GIGAスクール構想については、これまで対面教育を重んじてきた日本の教育において、対面教育の補完する機能として考えるとオンラインという手法は費用対効果がないため、このコロナ禍で初めてプラスに転じました。
それと同時にI C Tの活用は、「多様な子どもたち」に対応できるのであろうか?という問いも生まれ、これまで不登校対策として学校と家庭との間で行ってきた、家庭訪問等を通した学習等の支援や家庭への働きかけ、学校外の居場所を兼ねた学習支援、学校における登校支援という対面教育とともに、ICTの活用も併せて図っていく考えです 。
足立区には1,000人に上る不登校の子どもがおり、コロナ禍以前から、そういった多様な子どもたちとどう向き合っていくのかという点に力を入れており、不登校児童・生徒への支援の推進により、2018年度、不登校が減少に転じました。
足立区が行ってきた様々な取り組みには、「不登校支援ガイド」の作成による理解促進や、不登校の子をもつ保護者懇談会などがあります。これらは保護者の方の不安を取り除き、子どもが適切な支援を受けられる体制作りに繋がっています。
また、訪問支援、教育支援、登校支援に分け、児童・生徒の状況に合わせた支援を行ってきましたが、新たな取り組みとして特例課程教室「あすテップ」という中学校の一部を活用した施設による支援を開始。学校外の「チャレンジ学級」、民間委託による「居場所を兼ねた学習支援」に次ぐ第3の不登校支援施策となっています。この取り組みは児童生徒一人一人に合ったカリキュラムの下、教員の行き来や体育館の使用が可能であったり、給食が提供できる等のメリットがあるのが特長です。
今後は、アウトリーチ型の不登校支援も小学校を対象に検討中とのことで、背景としては、早期段階でのつまず き解消に効果的であること、家庭環境への働きかけが可能であること、中学生と比較して、不登校支援の選択肢が少ないこと等が挙げられていました。
アウトリーチ型の不登校支援は、ICTを活用した学習支援を組み合わせて行う予定になっています。
このように、足立区ではコロナ禍以前からあった「つまずきをバネにする仕組み」、「 学校以外の多様な教育機会の確保」に取り組みつつ、オンライン教育と対面教育のハイブリット教育を進めており、オンライン教育の課題で ある学校外での成績評価に取り組むことも共有いただきました。(下記資料参照)
最後に参加者の方へ、定野教育長から「現状のリフレーミングをしてみてください」という投げかけをしていただきました。
リフレーミングとは、これまでの見方と違った見方をすることで捉え方を変えていくこと。
例えば「学校に行けない→学校って何をするところなのかを考える」、「授業時数が足りない→授業本来の目的は何なのか?を考える」といった機会が与えられたと捉えることができる。当たり前のことができなくなった状況をリフレーミングすることで、ぜひ新たな捉え方にチャレンジしてみてくださいというメッセージで締めくくられました。
2. 学校再開~答えは現場にある~(京都府南丹市立園部中学校・國府常芳校長)
話題提供者二人目は、京都府南丹市立園部中学校の國府常芳校長です。
*資料はこちら
南丹市は京都府のちょうど真ん中に位置し、園部中学校は生徒数382名で中規模校です。
「南丹市立園部中学校教育グランドデザイン」は、國府校長先生が考案。
子どもたちを支える緑の矢印「家庭やP T Aとの連携」「食育の充実」「コミュニティスクール」を教育基盤として、赤枠の4つの実践「集団の育成」「人権教育」「教師力の向上」「学力の向上システム」を行い、中央の黄色の身につけさせたい資質能力を育み、目指すべき生徒像「基本的人権の尊重を基盤とし、学びを深め、主体的に行動する生徒の育成」と進めていきます。
そして「気づきがあり、思いやりがあり、頑張れる あの 園部中学校」というキャッチフレーズを掲げ、学校運営されています。
本日のテーマ「学校再開」については、休校期間中の取り組みと、再開後の取り組みという2つの軸でお話いただきました。
<休校期間中の取り組み>
(1)教職員との綿密な打ち合わせ
これまで培ってきたチーム園部中学校の教職員の一体感の維持と、「先を見通す教職員集団を形成する」という目的のために、「在宅勤務中のZoomによる教職員打ち合わせ(指示の徹底)」に取り組みました。
毎朝の職員打ち合わせや 2日に1回の企画主任会を実施。
しっかりと指示が全職員に流れるように、L I N Eを連絡ツールとして活用。校長先生から出た指示が企画を通し、そして各学年教職員や用務員さんまで伝わるように徹底。
(2)教育的意義と感染リスクを上皿天秤にかけた上での判断
多くの学校で中止していた家庭訪問を園部中学校では実施。4月当初にすでに家庭訪問実施の旨を先に校長先生から伝えた上で、教職員全員で課題の整理をされたとのこと。
これまでの家庭訪問の意義とは別に、休校中の家庭訪問の意義を考え、3つにまとめたものが下記になります。
○生徒の心の支え(カウンセリング)
○DV・ネグレクトの把握
○事故等の対応(危機管理)
この意義をもとに、「感染を広げる側になりたくない」という教職員の思いも大事にして「園部中学校家庭訪問実施方法」を考え実施。
これらの成果としては、地域の新聞に保護者との丁寧な連携とソーシャルディスタンスをとって家庭訪問をしたことが評価されたり、家庭訪問の中でネグレクトを心配していた生徒から家庭学習の成果として、家族でオムそばを作りお母さんが笑顔になって嬉しかったというレポートが届くなどしたそうです。
(3)教員からのメッセージの取り組み
ICTを使うのが苦手な教員も含め全教員がビデオメッセージを作成。
当初はこんなに多くのメッセージを作ってくれると思ってなかったので、教員としての意気込みを感じ、校長先生としても誇りに思っているとおっしゃられていました。
生徒に動画視聴アンケートを取ると、70%を超える生徒が視聴。
生徒からは「先生のメッセージに元気をもらった」「家庭学習の進め方の役に立った」「授業と違って何回でも見返せるのがいい」と教員の思いを受け止めてくれており、絆が深まったと話してくださいました。
今後はGIGAスクール構想への対応、補充 教室での活用、不登校生徒への対応に活用していきたいということです。
<学校再開後の取り組み>
生徒向け、教職員向け、保護者・地域に向けた取り組みをそれぞれ実施。
(1)生徒向け
教員の姿勢として、生徒分析をし、生徒分析を基に計画を立てる、定期的に見直し、今の取組を発展的にということを指示。
また生徒全員に校長講話を行い、タスクマネジメント力を身につけることを目的に、「家庭学習計画表」の作成を宿題にし、提出した計画表については「校長シール」を貼り一言記入しているとのこと。
(2)教職員向け
学校再開から一カ月後くらいには、生徒指導等で教師間の不協和音が起こることを想定。
この時をチャンスと考え、今年度の「チーム園部中学校」の組織づくりを開始。
また、陰で不満が募らないよう「R2校長への意見」を校内ネットワークに設置し、無記名で書き込めるような仕組みを作り、教師間のいじめや、セクハラ・パワハラ等の防止に努めたそうです。
(3)保護者・地域に向けた取り組み
・新型コロナウイルス感染拡大防止マニュアルの作成
・令和2年度南丹市立園部中学校進路説明会
・修学旅行説明会
などを行い、保護者の不安解消に努めているとのこと。
修学旅行に関しては、修学旅行の意義、リスクマネジメントも伝えた上で、今後の実施判断の方向性やスケジュールについても共有しているとのことでした。
このような徹底した取り組みにより、「意識が高い教職員集団の形成」や「『生徒のために』を合い言葉に努力を惜しまない教職員集団の形成」がされているそうです。
また、コミュニケーションづくりの工夫として“校長グッズ”を活用していることも添えていただきました。
最後に、國府校長先生から参加者の方への問として「スクラップアンドビルドを繰り返しながらも、子どもたちのためにというのが大事と思っている。それぞれの立場の方がそこに対してどう考えているのかをぜひ議論いただきたい」という投げかけで締めていただきました。
3. 不登校ではなく、「未登校」になる子どもたち
話題提供の後は、それぞれ約18分間、話題提供者、事務局、参加者の方々が3~4名のグループ(ブレイクアウトルーム)に分かれてそれぞれ議論が行われました。
定野教育長の問いに対しては、
といったキーワードが出てきました。
この中でも特に印象的だった「未登校」というキーワード。
これは、このコロナ禍でオンライン化が進んだことに対してある小学校の校長先生から
学校の本質とは何か?学びの本質は何か?先生の役割とは何か?
ここを曖昧にしていたら学校は取り残されてしまう。
学校が何のためにあるのか?何のために来るのか?
その価値をわかって教育活動をやっていかないとオンラインでいいですということになりかねない。
子どもたちは「未登校」になります。
不登校ではなく、行かなくて十分だよねということで「未登校」となる。
といったお話から出たものでした。
一方で、別のブレイクアウトルームでは、不登校が減ったという話も出ました。
休校により強制的に全員が「不登校」となったことで、これまでマイノリティだった不登校の子どもたちが、他の子と同じスタートラインに立てた、オンラインでの出席や分散登校という中二階ができたことで、学校に来るための階段を少しづつ登れるようになったなど、これまで見えていなかった子どもたちの「本当は学校に来たい」といった心の中が可視化された事象も起きたようです。
休校による学校の福祉的機能にも注目が集まりましたが、子どもの抱えている様々な課題の解像度が上がったことは、今一度「学校」の価値を振り返るきっかけとして私たち大人に大きな問いを与えてくれたように思います。
次に、國府校長先生の問いに対しては、
といったキーワードが出てきました。
あるブレイクアウトルームで、第1弾の話題提供者として参加してくださった齋藤校長先生から「上皿天秤にかけた判断は、24時間頭から離れない、毎朝学校の夢を見るという状況」というお話が共有されましたが、計り知れないプレッシャーの中、日々判断をされている状況であることが伺えました。
國府校長先生からは、校長先生のリーダーシップの在り方として
「答えがない」中で、どんな判断をしても保護者からの苦情は必ず出る。そういった時に「文句ばかり言ってくる保護者」と決めつけずに、その苦情が何を背景にして出たものなのか?その背景を掴んだ上で説明をしていくことを教職員に徹底している。
その上で、校長が責任を取るというのも当然あるが、保護者、生徒、学校とが一緒になって結論を出していく、そんな環境を作っていくことを大事にしている。
というお話がありました。
誰もが不安な中で出る意見の「なぜ」の部分を丁寧に聞いていくことや、答えのない問いに対して、一方的な結論を押し付けるのではなく、みんなで一緒に考えることで生まれる結論には取り残されていない「安心感」や「納得感」があるのだろうと感じました。
4. コロナ禍で見えてきた本質
最後に、冒頭でも触れたオンラインで「深める」フェーズについてです。
「グループ編成が完全にランダムだと話したいことが話せない」といった前回イベントのご意見をもとに、第2弾では最後に5 つのテーマ(学校再開と学びの変化/学校再開と不登校/教員の働き方/新しい生活様式の中での学校行事/その他)に分かれた議論の場が用意されていました。
議論を深め、そしてそれを次につなげることへチャレンジしたいとの想いが込められた最後のブレイクアウトルーム。
そのうちの1つ「学校再開と学びの変化」での議論について紹介させていただきます。
あるブレイクアウトルームでは、コロナ禍を通じて「見えてきた本質」について様々な声が上がりました。
学習アプリで勉強していた不登校の生徒が、適応指導教室でのテストで、授業を受けていた生徒より高得点を取った。これで知識技能の習得には学習アプリは効果的であることがわかり、だからこそ 、学校では思考・対話・アウトプットなどに力を入れよう、授業そのものを変えていかなければという雰囲気に変化している。
数学の教員がユーチューブで授業配信をしているのだ が、言葉を精選して伝えているので1.2倍、例年より進んでしまっているという事象が起きている(笑)
また、課題をこれまでみんな同じものを出していたけど、それだけにせず、レベルに応じた課題を出すことでより良くなったという話をしている教員もいた。
見えてきたのは先生の力量の差。
休校中の課題を出す際、子どもたちが自分で学習ができるように、教科書のどこをみたらわかるのかをどうやって伝えるかという話になった。
普段から授業プランがしっかり示せている先生は、休校期間の課題の作り方がものすごく上手。普段から力量の差はあったと思うが、授業だけ見ていてもわからなかった。それが今回の休校期間に見えてきた部分。
このように、今見えてきた様々な側面は子どもたちに及ぼす影響をよりクリアにし、ごまかしが効かなくなったようにも見えます。一方で、これまで評価されなかった面が客観性を持って評価される機会になったことも確かです。
いずれにせよ、これからの教育をよくしていくために、それらをどう評価する必要があるのかは、今後向き合うべき重要な問いとなってくるでしょう。
5. 連続開催 イベントへ参加することの価値
また、今回、ブレイクアウトルーム(グループワーク)での議論は、初めてJamboard[ジャムボード]というクラウド型のホワイトボードを使いながら進行。
議論をあとから「見える化」し、振り返ることができるのもこのJamboardの特徴です。
こういったアイディアもプラットフォームへ参加された方のご意見をもとに取り入れているそうです。
便利なツールはたくさんあっても、使うまでのハードルが高く、忙しさの中でオンラインツールをうまく導入できないような学校現場にとっても、このように試すことができるのは、イベントの価値の1つだと感じました。
また、継続して参加してらっしゃる方は、おそらく他の自治体や学校の変化に触れる機会もあると思います。
第1弾の話題提供者、横浜市立鴨居中学校・齋藤校長先生や戸田市の戸ヶ﨑教育長も参加してくださっており、前回からの変化について、情報交換されている1コマもありました。
全4回のうち、残すところあと2回となりましたが、これまで参加された方はもちろん、まだ参加されてない方も是非、ご検討していただければと思います!
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◆初のオンライン開催レポート
◆連続開催第1回レポート
▽教育長・校長プラットフォームとは
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