【第1弾】教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム「学びの保障」オンラインイベントレポート
6月21日(日)に教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォームにて「学びの保障」をテーマにオンラインイベントが開催されました。
レポートを通じて、当日の様子をお届けします。
<イベント詳細>
■日時:2020年6月21日(日)15:00~17:00
■登録者:164名
■参加地域:北海道〜鹿児島県
■話題提供者:
戸田市教育委員会/戸ヶ﨑教育長
横浜市立鴨居中学校/齋藤校長
「答えは現場にある」を理念とする教育長・校長プラットフォーム。
さて、「現場」というのは誰にとっての現場でしょうか?参加者のみなさんの姿から、「現場」の主語を改めて考えさせられる時間でした。
教育長・校長にとどまらず「今、自分は何をすべきか?」を考え主体的に取り組まれている学校現場の姿を想像することができました。
今回のイベントは、オンラインで全4回の第一弾。テーマは「学びの保障」です。開催の背景、話題提供者の実践内容、参加者のみなさんの声などをお伝えしていきたいと思います。
学校現場への想いと、教育実践がぶつかる化学反応を見たい
2020年3月8日(日)に実施した「教育長・校長オンラインプラットフォーム2020」は、初めてオンラインでの開催に挑戦。
事務局の方からは、オンラインでの初開催の達成感を感じた一方で、本当に学校現場の役に立つために、単発での開催にどれだけ意味があるのか?そんな想いが伝えられました。
特に、このコロナ禍における学校現場の様子として、日々変わる状況や方針 に振り回されているという側面ばかりがフォーカスされ、素晴らしい実践があってもなかなかそれが伝播していかない悔しさは事務局内でも共通の課題となっていたそうです。
厳しい制約条件や不確実性の中で、学校現場のために主体的に動かれている方たちの想いと、実際に積み重ねられてきた実践がぶつかる化学反応を見たい、そんな想いで4回連続のオンライン開催に挑戦することが決まったことが共有され、イベントが開始しました。
コロナ禍における「学びの保障」について
話題提供者からの話をお伝えする前に、まず、今回のテーマ「学びの保障」について少しだけ触れてみたいと思います。
文部科学省から示されている、基本的な考え方として「感染症対策と子供たちの健やかな学びの保障の両立」ということで、
・臨時休業中も、学びを止めない
・速やかに、できるところから学校での学びを再開する
・あらゆる手段を活用し、学びを取り戻す
・柔軟な対応の備えにより、学校ならではの学びを最大限確保
が挙げられています。
※出展:新型コロナウイルス感染症対策に伴う児童生徒の「学びの保障」総合対策パッケージ【詳細版】
これまでにない状況下で、新学習指導要領の目指す学びを実現するために、これらの考え方を元に、具体的にどのように子どもたちの学びの質等を担保していくのかというのは全国共通の課題となっています。
そんな中、今回の話題提供者の方には、実際に行った実践とその背景をお話しいただきました。
話題提供① 埼玉県戸田市/戸ヶ﨑教育長
一人目は、埼玉県戸田市教育委員会の戸ヶ﨑教育長からの話題提供です。
戸田市の“目指す学び”と、“オンライン学習の成果と課題”を共有いただきました。
目指す学びは、子どもの「学びの連続性を保障する」こと。
戸田市の教育委員会からは、子どもたちに安心感やモチベーションを持ってもらうため、各学校長へは、「コンテンツよりコンタクトを大事」にということで、5月6日までに1本だけでいいので動画配信にチャレンジして欲しいと呼び掛けました。
すると各学校間で自走・ 共創・共有が始まり、結果的に5月末までに数百本の配信や、学校によっては双方向の取り組みも始まりました。
※具体的な3月~5月の流れは以下の画像参照。
このような中で、オンライン学習の成果としては、ICTインフラ整備の土台形成や教職員のリテラシーの向上に加え、学習活動の重点化や教材研究等の新しい切り口を見出すことにつながったこと。
また、家庭学習など学習 環境が変わることで自律や主体性が求められ、非認知能力を鍛える機会となったこと。
さらに、学校の役割や子どもたちとの信頼関係づくりの再確認の機会にもなったといいます。
一方、オンライン学習の課題としては、非言語コミュニケーション等が難しくなるため、「機会の保障(やったつもりの学習)」に止まり、質の保障が担保できないこと。
学習者のモチベーションの維持やサポートをタイムリーにできないことや、保護者サポート(特に低学年)の有無や強弱、WiFi環境やPC端末の有無など家庭の学習環境への違いへの配慮、 また、自律的に学ぶための土台づくりも必要です。
これから は、通常の授業においても、これらのノウハウを生かしたオンラインとオフラインの学びを適切に組み合わせた「戸田型ハイブリッド学習」に取り組むことを考えているとのこと。
今後、学びの最適化に向けた手段は変化し続けても、深い学びや学習効果の最大化を実現するカリキュラム・マネジメント、教師の授業観や教材観の重要性は変わらないはず。
このように考えると、コロナ禍での様々な学校の困難は、コロナ以前からあった学校や授業をめぐる問題が顕在化した部分が大きいとも言えるかもしれない。などと強調されていました。
最後に、心に留めておいてもらいたいこととして、
・困難な時だからこそ地道な活動をひたすらに慫慂すべきこと
・発想を転換し、行動の原動力を広く生み出していくこと(ハードルは、高ければ高いほどくぐりやすい)
・既存の仕組みにとらわれず、 叡智を結集し、新たな改革のチャンスにして欲しいこと
といった3つの強いメッセージをお伝えいただきました。
話題提供② 横浜市立鴨居中学校/齋藤校長
二人目は、横浜市立鴨居中学校の齋藤校長です。
鴨居中学校では休業中に「鴨居チャレンジ C&S」と銘打ち、“家庭と学校のつながりを止めない““子供たちの学びを止めない“この2つを軸に実践を行い、その背景について共有いただきました。
「鴨居チャレンジ C&S」を行うポイントとして、学習も大事だが、第一は生徒の心と身体のケアとし、普段やっていることをなるべく続け、家庭の環境を考慮しつつ、あらゆる手段&方法で発信&取組をし、管理職としては教職員の健康と勤務環境の留意に努めたとのこと。
※具体的な取り組みは、以下の画像参照。
こういった取り組みへのチャレンジも、横浜市では双方向のオンライン授業の許可はおりていないなど、取り組みたくてもできないことも様々ありました。
枠組みの中で何ができるか?という観点でこれらを行い、例えば学習用の端末の貸し出しに関しても、学校独自で企業等から集め、端末のない家庭に無償で貸し出しを行うなどしました。
次に、今後の学校経営で留意することして、キャッチコピーとともに思っていることを共有いただきました。
・〇〇を止めないで
丁寧な学習支援、密にならないことでということで心理的にも距離が開くので、一体感を生み出す努力を。
・定点観測
これから判断する際に、根拠はデータであり、生の声なので、それをしっかり根拠として残していく。それをもとに今後、学校長としての決断が生まれる。
・そこに愛はあるんかい?
大事なのは「愛」。ギスギスしないようにマイナスを指摘しないように、人に優しく。
学校風土として、厳しくて温かい、温かくて厳しいというものがあるので継続させたい。
・今、そこにある危機
いつ何時災害が起きるかわからないので、ピンチがくるのを予測し、地域のみなさんと協議して、先生方と意見交換をして考えている。
普段できないものは、いざという時にできないので、先生方にもそこを実感してもらいながら準備をしている。
そして、日々のメール配信の中で家庭学習に関してアンケートを取っているそうです。それらの内容をデータ化し教職員間で共有し分析。現在は、休業中のアンケートを分析し、今後の材料にしたいと思っているとのこと。
このように鴨居中学校が具体的に何を行ったのか、実践や想いの数々を共有いただきました。
提供いただいた実践2例の共通点として、新しい手段そのものにフォーカスせず、変えること変えないことを明確にし、今後を見据えた取り組みであること。そしてそれ以上に学び手である子どもたちに寄り添った実践を目指している点があげられるのではないでしょうか。
また、学校ごとに課題が違う中で、ある一定の枠組みを示すことは、ネガティブに捉えられることもありますが、正解のない中で各学校の自走を後押ししているようにも見受けられました。
ICT環境やモチベーションに差がある中で、一律の対応は難しい
話題提供後に行われた、参加者同士がグループに別れて行った議論では、現場の共通の悩みとして、ICT環境が整っていない家庭や、児童・生徒のモチベーションの差により、一律の対応は難しいといったことが上がりました。
具体的には、
オンライン学習の環境は整っているが、1人1台の環境整備が進んでいない。休業中は、オンラインでの授業制作、配信等を行って、先生方のスキルも上がったと思うが、今は学校再開して、そういったオンラインコンテンツを作る時間は全く取れない。本来は流れを止めない意味でも、オンライン化の流れの中で、復習用の動画なども作成して、配信したい。(小学校校長)
オンラインコンテンツをしっかり家庭で学んできた子どもと、まったく見ていなかった子どもに分かれ、後者のフォローはやはり、補習等行っていかなければならない。(小学校教員)
ホームルームを週2日、オンラインでやった。Youtubeで動画を配信するのをやって欲しいと学校長から指示があった。オンラインとオフライン大切になってくると言っていたが、学校再開と同時にオンラインは止まってしまった。これからの新しい形はどう進めればよいか(高校教員)
一方で、公平性の観点により、学校に対して一律の対応を求める自治体も多く、各学校の一存では決められずに動けないといった実情も多くありました。
そのような中、今春の人事で現場から教育委員会へ異動し、両方の立場を経験した方からは、
一律に同じ対応をするのは難しい。教育委員会で決められるのは枠だけ。枠から飛び出す学校があってもモグラ叩きしてはいけない。(教育委員会)
といった声もありました。
また、授業だけでなく、
今は修学旅行、合唱、等をどうするか議論している。例年、中3で九州に民泊に行っていたが、今年は断られた。コロナにおいてどうするか、学校独自のガイドラインを作っているところ。あとは入試に向け、未履修を起こさないためにどうするか、私学の高校の校長や県教育委員会と議論を始めた。(中学校校長)
といった話題も上がりました。
リスクを負わなければ何も前に進まない
こういった課題がある中で、各自治体や学校で行われた工夫は、前例のない状況に対して「リスクを負う」ことを前提とした、各現場のリーダーの判断による実践であることが伺えました。
それにより現場の教職員の方たちの自走へ展開するなど、課題は残りつつも今後に向けた発展的な実践となったことは間違いないようです。
また、児童や保護者の前向きな反応なども共有されていました。
具体的には、
<導入に関して>
他校では、できるだけリスクを負わない方針で、「プリント学習以外何もやらない」ところが多かったが、わが校ではできるだけハードルを下げてリスクを負っても実践しようと職員に呼びかけた結果、学校独自にパスワードをかけて、Youtubeを通じて動画の配信を行った。全教員が動画の配信にチャレンジしたことで、GIGAスクール構想に向けた大きな一歩を踏み出すことができたと振り返っている。
子どもへのアンケートの結果、3割程度はそれでもオンライン動画は見ていない(ICT機器や環境の問題、家庭の事情等)(中学校校長)
<時間に関して>
クラブ活動を減らして、15分のモジュール×週に3回等、授業時間を創出している。(小学校校長)
<オンライン授業に関して>
動画と同じ内容を授業でもやっていると、「それ見た」という反応になるので、導入の仕方や授業の運び方を工夫して、動画で配信したのとは違うコンテンツのつくり方を授業で行っている。(小学校教員)
オンライン授業をやらないといけないという空気はある中で苦手な先生がいた。研修を組んで、できるように補助もしたら、そうした教員が楽しんでやっていたのは微笑ましかった。通常登校後も教員が作った動画、調理実習、オリンピック体操等を使って授業している。(小学校校長)
保護者から、児童が好きな先生の授業を見て休業期間を乗り切ったという言葉もあった。(小学校校長)
<保護者とのコミュニケーションに関して>
夏休みの教育相談はオンラインでも受け付けられるようにしたところ、保護者から好評。また学校参観もオンライン配信(Googleクラスルームを活用)を検討している。(小学校教員)
<その他>
上層が、今は緊急事態だから変わっていこう!と判断した。「今、子どもたちのために何すればいいのか」を全力で動けたのはよかったと思う。(教育委員会)
これまで動かなかったものが動くきっかけに
また、戸田市の教育委員会内でも前例のないChromebookの家庭への貸し出しに関しては、大きく議論が別れ、実際に貸し出し直後に壊れた事例もあったとのこと。
「しかし、リスクはつきものという前提で判断していかないと前進しない。今回の事態で失ったものはあるけれど、新たな可能性も生じてきた。これまで動かなかったものが動くようになってきた。これに乗るか乗らないかは意欲の差になる」といったモチベーションの重要性や、今回挑戦したことで見えてきた課題に対して「今後、オンライン活用について通常授業の中でもできるのも考える必要があるが、まだ研究が進んでいない。今後知見を得ることができたら、またこのプラットフォームでシェアしたい」と、戸ヶ﨑教育長からの意見も共有されました。
みなさんの力強く根をはった意志が芽生えるように
最後に事務局の方からの結びとして、3月開催予定だったオフラインでのイベントのコンセプトの副題「つながる・楽しむ・つむいでいく」に触れられました。
この4回のオンライン連続開催にふさわしいと思っていることや、副題の3つのテーマに「芽生える」というテーマを追加し、みなさんの力強く根をはった意志が芽生えていくということを一連の企画の最終目標にしたいとの思いが伝えられ終了しました。
次回のオンラインプラットフォームの開催は8月上旬。
開催地のハードルがなくなったことで、全国の現場が繋がりを持てる場になっています。
まだ参加されてない方も、ぜひご検討されてみてください。
■編集後記
今回、新型コロナウイルス感染症の影響により、学校現場に起きた問題に対する行動として、
「普段からやっていないことは、有事にもできない」ことを実感された方は多かったのではないでしょうか。
一見、先進的で強力なリーダーシップのもと行われたようにみえる実践の数々も、コロナ禍以前からの積み重ねによるものであることが、話題提供からも伺えました。
また、様々な制約の中で、できないことを嘆くのではなく、どうしたらできるのかといったところにフォーカスした参加者のみなさんの熱量は、今後起こりうる困難に対して希望の光となったと思います。
この熱量をさらに広げていくことで、誰一人取り残すことのない教育の実現に近づいていくことと思います。
このプラットフォームが熱量を伝播させるきっかけとなっていくために、残り3回も日本の教育のためにみなさんと力を入れて合わせていきたいと強く思いました。