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映画BLUE GIANT感想-異常な熱量を持つ総合芸術
ジャズは、落ち着きたい時に聞くもの。私の中ではそういうものだった。
コロナだの戦争だの、色々ニュースが鬱になるものばかりで、いつしかネットラジオのジャズチャンネルを流すのがモーニングルーティーンとなっていた。
とはいえ、私のジャズ知識は適当で、知っているアーティストは、コルトレーン、マイルス・デイヴィス、ルイ・アームストロング、チック・コリア、アート・ファーマーあたりの定番中の定番。
そんな中、無実の罪でツイッター凍結祭りに巻き込まれて、解除まで20日間を費やした(英文異議申し立てを送り続けた)。その顛末については、以前書いた記事を参照してほしい:
そういった、踏んだり蹴ったりの中、映画BLUE GIANTを見に行った。ジャズプレイヤーの青春と成長を生き生きと描写した物語で、石塚真一先生の同名漫画が原作だ。
監督の立川譲さんは、デス・パレード、モブサイコ100ですっかりファンになっていたので、予告編を見た時点で楽しみだった。
見た結果、本当に当たりだった。また立川譲監督がやってくれた。上原ひろみさんの音楽も素晴らしく、ライブ映像はヤバイくらいのドライブ感でやみつきになる。これは本当に中毒性がある。
また個人的には、男性キャラの魅力が本当に引き立っていて、見ていて幸せになる。昨今何かと美少女ものに水を開けられていて男性キャラ不遇のなか、魅力的な男性キャラを描けているのは、異性愛者の女性である自分にとっては本当にありがたいことだ。
特に私は玉田が好きになってしまいやばかった。彼は上京した主人公・宮本大を泊めてやり、そのまま居候を許す聖人であり、少しネタバレになるが(まあポスターや予告編でバレバレだが)、大が組むバンド・JASSに、全くの初心者でありながらドラムス担当として加入することになる。
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この玉田の頑張りが凄いのである。彼の挫折と成長は凄まじく、終盤クライマックスのライブシーンでの玉田の演奏とキャラクター性、ドラマは胸を揺さぶる。
また、JASSのピアノ担当である沢辺雪祈は、幼少の頃からピアノをやっているピアノエリートであるが、彼のドラマも熱い。技巧派にありがちなことだが、彼は「型にはまってしまっている」との指摘に悩み、挫折するが、そこからのリカバリーのドラマや、終盤の不幸からの立ち直りが凄まじい。
あと、なんだかんだ初心者の玉田を気にかけ、色々と教えてあげる優しさも泣ける。
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そして主人公の大だが、四六時中テナーサックスを吹いている異常者、さすれば音楽界の大谷翔平と言ってもいいくらいの「バケモノ」である。(映画本編の時点で)サックス経験は短いものの、経験の長い沢辺が、大の音を初めて聞いた時ショックを受けるくらい、インパクトのある音を奏でる。
大は「世界一のジャズプレイヤーになる」と事あるごとに口にし、実際そうなることが何度も劇中で示唆される。この大口も、再三現実と比べて何なんだが、ワールドカップでドイツにトドメを刺した堂安律選手や、夢のプランが子供の頃から具体的で、MLBのMVPやWBC優勝を勝ち取った大谷選手と重なるものがなくもない。
そういった、「サックス星人」である大であるが、彼は全てをサックスで「語る」。どう生きてきたか、どういう思いでいるか。その全てをサックスで語ることができる人間であることが、劇中で強く描写される。その説得力が物凄く本作は強い。
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BECK(ハロルド作石先生のロックバンド漫画)やTo-y(上條淳士先生のボーカル漫画)などの音楽漫画は、劇中で語られる音楽の凄さを映像で再現することは不可能と言われてきたが、本作は、奏者のオーディションを行い、キャラクターになりきって演奏してもらうという手法を取っており、それが徹底されている。
また、演奏だけでなく、「これは凄い音楽なんだぞ」と強力に視聴者を捻じ伏せに来る演出と作画、カメラワークや撮影、色彩も鬼気迫るものがある。これは本当に偉業だと言っていい。BECK(アニメ)の監督のコバヤシオサムさん(ど根性ガエル作監の小林治さんとは別人)は生前、To-yを楽曲から逃げずに大音量で再アニメ化したいとツイートなさっていた。もし生きていらっしゃったなら、本作に嫉妬して憎まれ口を叩いていたかもしれないし、素直に喜ばれていたかもしれない。亡くなってしまい残念だ。
作画、演出、音楽もさることながら、本作脚本のNo.8(南波永人)さんの手腕も凄い。No.8(南波永人)さんは、原作の石塚真一先生と二人三脚でBLUE GIANTを作り上げてきた人であり、その人がまとめるのなら間違いはない。
私は長いこと高屋敷英夫さん(アニメ演出家、脚本家)の探求をしてきた( https://makimogpfb2.hatenablog.com/ )が、とかく監督や映像に隠れがちな「脚本」に非常に注目するようになった。一流の脚本家は、1分1秒さえ与えられれば、キャラクターの「物語」を紡ぐことができる。これが私が、高屋敷さんの担当作をつぶさに観察して辿り着いた持論だ。例として、私の以下のブログ記事を紹介したい:
本作脚本のNo.8(南波永人)さんもまた、そういった「物語の紡ぎ手」として一流であると思う。普通はTVアニメにしたい物語を、2時間で、視聴者が引き込まれる構成と物語にしたのは、実際とんでもないことだ。ここにも拍手を送りたい。
そして私は、2023/3/20にTOHOシネマズ日本橋で行われた、本作の監督登壇・応援可能上映にも足を運んだ。拍手したいと思っていたので、またとない機会だった。登壇した立石譲監督と、大のサックス演奏を担当した馬場智章さんからも、貴重な話が聞けた。特に音楽と、沢辺のピアノ演奏担当である上原ひろみさんが、音楽家としての立場からキャラクターの感情の動きについて監督に助言していたことと、エンディング曲を打ち合わせ時に10分ほどで書き上げたという話は印象的だった。
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最後にサプライズで、原作の石塚真一先生も登壇して、場を盛り上げてくれた。本当に実のある、楽しいイベントだった。
実は、監督への質問コーナーで、指名されたら聞きたかったことがあった。
質問したかった内容はこうだ:
「立川譲監督は、デス・パレードやモブサイコ100で、割と温かめのヒューマニズムを作品に出していますが、人間の善性を信じるタイプなのですか?」
世には、自らの人間不信や暗い感情を作品にぶつける作家もいるわけだが、基本、立川監督の作品を見た後に残る印象は「この世は結構“いいやつ”で溢れている」だ。
デス・パレードやモブサイコ100は、演出や作画もよくて、普通作画がいいアニメ作品は「物語がおろそかでスカしている」ものも少なくないのだが、この2作と本作は、視聴者の涙腺を奪いにくるのだ。
そういった点でも、立川監督の多角的な「打率の良さ」は本当に奇跡的で、監督への信頼度は増々強まった。あと余談だが、佇まいと声がダンディで素敵だった。
そういうわけで、本作は、あらゆる面のパラメーターが飛び抜けている、異様な熱量を持った作品と言えるだろう。そう、表題のBLUE GIANT(あまりの熱量で青く燃える星)そのものなのだ。
余談:
これは本作初回を見に行く前に食べた星乃珈琲店のバニラスフレ
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あと、この記事に使おうと思って急遽描いた本作のファンアート。玉田推し
描いたファンアートのメイキング動画。tiktokやyoutubeで本作のサントラを選べる機能があって楽しい。
Youtube版: