音はくりかえすと音楽になる
想像してみてください。
なんでも4回繰り返して話す人がいたとします。
あなたは、この人と話したいですか。私だったら嫌です。
では、同じエピソードを何度も話す人がいたとします。あなたは、この人の話を聞きたいですか。私だったらきっと退屈に思います。
音楽なら?
さて、もう一度想像してください。これが歌詞だったら。・・・4回くりかえすのは全然あり?
それに、知っている曲がコンサートで流れたらみんな大喜び。これって同じ話を何度も聞かされる状況と同じなのに、変だと思いませんか。
くりかえし。
実は音楽と言語で効果が全然違うのです。
音はくりかえすと音楽に
言葉の一部を切り取ってくりかえすと、歌に聞こえることがあります。同じように、言葉以外の音もくりかえすと音楽に聞こえることも。ほら踏切のカンカン、音楽に聞こえたりしませんか?
このくりかえしの技、業界では有名なので、知ってる・使ってるという声が聞こえてきそうです。そう、現場ミュージシャンに遅れることウン十年、2011年にDeutschらが「言葉をくりかえすと音楽に聞こえる現象」を実験で確かめたのです(the Speech to Song illusion)。
ミュージシャンは「くりかえすと音楽に聞こえるのか。じゃぁそれで曲を創ろう」と言い、科学者は「ことばをくりかえすと脳は音楽だと解釈するらしい。なぜだ?」と問うのです。
なぜ?
くりかえすと音楽に聞こえる音、聞こえない音、その違いはかなり分かってきています。例えば、くりかえす音のピッチやリズムが、もとからどれぐらい音楽に近いかは決め手の一つ。
でも「なぜくりかえすと音楽になるのか」についてはまだわかっていません。言語モデルや、興奮性・抑制性神経回路にインスパイヤされたモデル、最近人気のPredictive Coding理論など、解説の候補が乱立中です。
くりかえし音が聞こえたとき、脳が弾き出す最適解が音楽…でも脳がどうやってその解にたどり着くのか、わかりそうで、まだわかっていないのです。もしこの謎が解けたら、「音楽とはなにか」という永遠の問いのヒントが見えてきそう。そんなこともあって「くりかえし」はここ何年か私の周りで盛り上がっているトピックの一つです。
より詳しい情報
Deutsch, D., Henthorn, T., & Lapidis, R. (2011). Illusory transformation from speech to song. The Journal of the Acoustical Society of America, 129(4), 2245-2252.
Margulis, E. H. (2014). On repeat: How music plays the mind. Oxford University Press.
Tierney, A., Patel, A. D., & Breen, M. (2018). Acoustic foundations of the speech-to-song illusion. Journal of Experimental Psychology: General, 147(6), 888.
Groenveld, G., Burgoyne, J. A., & Sadakata, M. (2020). I still hear a melody: investigating temporal dynamics of the Speech-to-Song Illusion. Psychological Research, 84(5), 1451-1459.
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