小声コラム#16 ハンバーガーショップのスパイ
書き物をしようと思い、いつも利用しているマクドナルドに入った。
窓際のテーブル席に座って本を読んだり、執筆をしたりしていた。
なにも起きない平和な休日だなぁ。なんて思いながら、少し冷めたコーヒーを啜っていると、1人の女性が目についた。
パッと見たときになぜか気になる人(男女問わず)がたまにいるが、その女性はそういう人だった。
私はそんな人を見つけると観察してしまうクセがある。
彼女の足もとに視線を移すと、キャラ物のソックスを履いているのがわかった。
そして少し目を凝らして、僕は焦った。
大手ハンバーガーチェーン・Wendy'sの女の子
ウェンディーが編み込まれた靴下を履いているではないか!!
そう、私は、マクドナルドに潜り込んだWendy'sのスパイに遭遇し、それに気づいてしまったのである。
ここからは彼女をウェンディーとして記述する。
ウェンディーはひっきりなしにスマートフォンを触っている。
本社にライバルの情報を流しているのであろうか。手の油がスマホの画面につくのもお構いなしだ。
もしや、油の成分を分析するために恣意的に油分を採取しているのではなかろうか。きっと僕が知っている以上に世界の技術発展は著しい。
耳にイヤフォンをしているところをみると、これはリアルタイムで情報のやりとりを行っているのだろうか。
「いや〜、良い油使ってますねぇ」「この油で天下取ってるわけっすもんねぇ」
「まあ、それも今日で終わりっすけどねwwwwww」
おそらくこんな調子だ。
スマホを見ながらウェンディーは微笑んだ。笑いがこみ上げて止まらない様子をみるところ、
読みどおりに違いない。
そしてまた、新たな事実に気づいてしまった。
マック店員のジャンバーを羽織っているだと!?
そう、つまりこれは長期潜入型スパイ活動ということである。肝が据わっている。ついでにバーガーを見つめる目も据わっている。
ハンバーガー業界の争いが熾烈であることは、マクドナルドとバーガーキングの広告のやり合いを見てきたので認識している。ただ、それは広告上の演出であると思っていた。
まさかここまで激しい競争を繰り広げているとは思いもしなかった。
神の見えざる手、バブル経済の崩壊、アベノミクス、自由競争市場の発展
大企業安定神話、言論の自由、インフルエンサーの虚栄、サイゼリアコスパ最強説
全ての社会の通説の裏には、私たちには不可知の策謀があるに違いないと確信した。
誰か来た。
この文書を記録している最中に、1人の男が僕のテーブルの前に座った。
彼の着ている黒のトレーナーを見て、私は自分の目を疑った。
TOYOTA !!
なんと、車界のトップ・オブ・ザ・トップの名前とロゴが黒トレーナーにあしらわれていた。
そういえば、たしかTOYOTAは街をつくる構想をしていると聞いたことがある。
間違いない。その街にはハンバーガーショップができる。
まさか平和な昼下り、まだ構想段階であろう大企業の極秘事項を知ってしまうことになるとは。この記事は大スクープになってしまうではないか。
しかしながら、私は感心してしまった。
大企業は戦っているのだ。休日の夕方だというのに、なんだこの仕事への熱量は。天晴である。
正直に告白しよう。大企業で働く人をどこか冷めた目で見ていた自分がいた。
安定を得てその保身のためにこなす仕事に意味があるのだろうかと思っていた。
バカか。全く違う。命を掛けている。生き残るために命がけで働いているのだ。
それに比べて私は何だ。
バリューセットのドリンクをコーヒーにしたら甘いものもほしいな〜。けどシェイクはポテトSとバーガー食べてるうちに溶けるしな〜。そんな食べたくないけどアップルパイにしとくかぁ〜。だ。
おそろしい煩悩である。
そして最後に現れた人物がいる。
中年の男性。
胸には、" わだ " と書かれたネームプレート。
誰だ!?!!
エメラルドグリーンのスマートフォンケースを、縦に横に熱心に何かを触っている。スマホでコーディングでもしているのか。政府関係者だろうか。
そして彼とふと目が合い、彼は私を見てニヤリと笑った。
まさか見られている?!!監視カメラをハッキングしていたのか!!
そうなるとこの文章を書いていることがバレて、命も狙われ兼ねない。
PCのバッテリーもきれそうだ。わだが何者か暴くことができず悔しいが、ここまでのようだ。
無念。
帰り際にウェンディーズとTOYOTAとわだとチラリと見た。
全員、机に突っ伏して寝ていた。
働きすぎて疲れても、マナーは大事にしようと思った。
#16 ハンバーガーショップのスパイ
今日も平和で本当によかったです。