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「異動辞令は音楽隊!」の並行世界
■観てきました
公開3日目の昨日、やっと阿部寛さん主演の「異動辞令は音楽隊!」を観てきました。エピソード盛りだくさんで、場面場面に注がれる登場人物への優しい演出が感じられる作品でした。
大まかなストーリーは、既にいくつものウェブ記事や予告でご覧になった方も多いと思うので、わたしなりに深く感じた部分を多次元的な視点で整理してみようと思います。
※ネタバレ含めないように努力しますが、鑑賞後にご覧になるほうが良いです。
■前半は成瀬(元)刑事のイライラにつき合います
映画館のお客さんは全体的に年齢層が高く、ご自身の生きざまにシンクロする部分を感じて来館された方が多いのかな、と感じました。
私もフルートとトランペットを吹く高校生の娘2人と鑑賞しましたが、まずはテレビの予告宣伝でチラリと耳に入った「宝島」が聴きたかったこと、そして、不条理な部署異動を徐々に受け入れる主人公がなぜか物語だけの人物とは思えなくて、いてもたってもいられない気持ちになったからでした。
ちなみに映画鑑賞前、長女は県警のウェブサイトで音楽隊のフルート奏者募集を見つけたものの、とうに締め切りを過ぎていて悔しがっていました(そもそも音大並みの技術もありませんがね)。
■並行世界で、奏者と刑事が同時に進んでいる
ちょっと逸れますが、「パラレルワールド」・・量子力学で言われる「多世界解釈」のことですが、有名な「シュレディンガーの猫」に代表される2つの重ね合わせ状態のように、この世界はいくつもの並行世界が同時に進んでいるとわたしは考えます。
あの時、あの選択をしなければ。
年齢を重ねるほど、過去を振り返る機会も多くなります。
主人公・成瀬(阿部寛)にも、きっといくつもの並行世界があって、あるタイミングで刑事一筋の人生から、活動廃止寸前の県警音楽隊に世界がずれたのだと思います。
そして、異動後もその新しい世界を受け入れられず、消化不良のイライラを現場の音楽隊員や捜査一課の元部下、自身の娘、認知症の母に八つ当たりするしかない日々を送るのです。
■変化を受け入れる瞬間
ストーリー後半の成瀬は、あるときから何もかも吹っ切れた穏やかな表情になります。
けれど簡単にありのままを受け入れたわけでなく、葛藤を繰り返しながら、清野菜名さん演じるトランペット奏者・来島とのセッションを経験したあたりから過去の人間関係を振り返ることができるまでに落ち着きます。
その頃にはもう、ブルーの県警ユニフォーム(ガタイが良いので特注)も、サマになっています。
■映画にみる高齢者の姿
この物語には、ふたりの印象的な高齢者が登場します。
ひとりは成瀬の母で認知症高齢者を演じる倍賞美津子さん。亡くなった夫や別れた成瀬の妻の存在を今も感じて生きています。
その物忘れを映画の中では「何度言ったら分かるんだ!」と、成瀬に怒鳴られ表情を失います。
部屋の壁には、
「お父さんは死にました」
の貼り紙。認知症介護をする家庭に見られる注意書きの風景です。
もうひとりは、音楽隊のファンで団員から「家族のような関係」と言われる、高齢の女性。いつもシルバーカーを押して、演奏後のメンバーをねぎらいに現れます。
このふたりの高齢者が物語を支えます。そして、現代社会の犯罪問題を炙り出していきます。
* * *
すこし物足りないかな、という腹八分目でエンドロールのこの映画。続編制作を期待したいです。
それから演奏はすべて出演者の音色だそうで、高杉真宙さんのサックスソロがよかったです。あと、モトーラ世理奈さんが印象的なカラーガードリーダーを演じています。ぜひ。