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「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる」感想/恋をする前も、後も。
1977年生まれの私が10代の頃にいちばん読んだ本は山田詠美さんの「放課後の音符」という短編小説集で、その小説に出てくるような恋がしたくて、そのためにはどうすればいいか、を考えながら過ごした10代だった。
林伸次さんの「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる」を読みながら、そんな10代の自分を思い出した。もし、あの頃にこの本も手元にあったなら。きっと「放課後の音符」と同じくらい何度も読んで、そしてずいぶんと人生が心強かったのに、と少し悔しく思った。
この本に収められているのは、20あまりの恋の話。作者の林伸次さんが実際に経営されている渋谷のバーBar Bossa、そのバーのお客さんの打ち明け話をこっそり教えてもらっているような、そんな形式で、色々な恋の話が連なっている。
成就した最高に幸せな恋の話だけではなく、人生の試練とも言うべき、実らなかった悲しい恋~失恋や離別、死別~の話もある。各ストーリーの登場人物とバーのマスター「私」がその甘さや痛みを分かち合いながら昇華していく恋の話は、私がかつて熱中して読んだ「放課後の音符」以上に恋愛の見本市だ。そしてどんなに残酷に終わった恋であっても、決して相手を悪く言ったり恨んだりせず、恋の終わりを供養するのがとてもよかった。
恋はたとえ実らなくても、十分に素敵だ。
それを教えてくれる本書があれば、ちょっと無理そうな相手に思いを伝えることを迷わないような、そんな20代30代を過ごせるんじゃないかと思う。
40代になった私は、かつての恋を思い出しながら、ページをめくった。そして今回ご縁があり、一足先に読ませていただいた文庫版オリジナル書き下ろし部分のストーリーを読み、もしかしたらあの恋の先にもこんな後日談があったのかも?なんて思ったら、過去の恋がキラリとまた輝いた。
恋はたとえ実らなくても、十分に素敵だ。
そんな気持ちにさせてくれる本書は、過去の恋の素晴らしさを再発見させてくれる、そんな一面もある。