【寄り道】司馬遼太郎の徳川家康を読む
幕末についての小説作品を整理しようと始めたnoteでしたが、10月は早速寄り道をして徳川家康を読んでおりました。
徳川家康の古典とも言われる山岡荘八先生の作品は未読、安倍龍太郎先生による家康巨編にもまだ手を触れておりません。
もっぱら司馬遼太郎であります。
そして司馬遼太郎の家康といえば、三部作と言われる次の作品群です。
今月は『覇王の家』『関ヶ原』を再読し、満を辞して大坂の陣『城塞』を読んでいるところです。
『覇王の家』
三部作の最初は『覇王の家』。
戦国の世を平げ、江戸に幕府を開府した徳川家康。彼が天下の政権を手中に治めた関ヶ原前夜を描きます。
幼少期の人質時代に始まり、三方ヶ原や長篠の戦い、本能寺の変を転換期とした伊賀越、そして秀吉との小牧・長久手の戦いなどのハイライトを通じて、三河武士団の頂点に立った人間・家康の物語です。
本作の魅力はなんと言っても三河武士団のキャラクターが豊かなこと。
2023年の大河ドラマ「どうする家康」が発表しているキャストでイメージを膨らませながら読むと、一人一人の挙動や言葉がより生き生きと伝わってきます。
この読み方、お勧めです!
『覇王の家』を読んでいると、やっぱり秀吉に興味が湧いてきますので、『新史太閤記』にも手が伸びてしまいます。
こちらは秀吉の生涯を描いた長編ですが、家康との長い対決を融和させ、天下人としての地位を確立させた彼の「かっこいいところ」までを描いている、と受け取っています。
晩年、猜疑心に満ち、無益な拡大戦略に固執した秀吉の姿は描かれていないので、すっきりとした読後感を味わえる成り上がりの物語で、夢が与えられる気分です。
幼少期から青年期までの家康の物語を補完する意味で、植松三十里さんの小説『家康の母 お大』が、コンパクトにかつしっとりと上品にまとまっていて気に入っています。
『関ヶ原』
三部作続いては『関ヶ原』。
近年では原田眞人監督、岡田准一主演で映画化されました。
今回の再読で、通読は三度目?四度目?いずれ私の中で最も回数を重ねて読んでいる司馬作品です。
読むたびに発見がある傑作だと思うので、私が言うまでもないのですが、未読の方にはぜひ手にとって読んでみてほしいです。
ちょうどこの時期、伊東潤さんの新作『天下大乱』が単行本化され、これも同時に読んでみました。
東軍は家康、西軍は三成ではなく毛利輝元の視点から描いた関ヶ原の物語です。
司馬作品によって関ヶ原を知った私としては、この伊東作品は全く新しい物語に感じました。
そういえば関ヶ原の合戦の時、淀君や豊臣秀頼はどうしてたんだろう。司馬作品ではそこが描かれていなかったので、本作では新鮮さを感じましたし、それこそ次に読む『城塞』に続くものとして、時代の説得力を感じました。
この作品は最新の関ヶ原研究をもとに描かれているということで、そちらも勉強したくなります。
2022年の7月に発行された笠谷和比古氏の『論争 関ヶ原合戦』では、400年を経た今なお論戦が繰り広げられている関ヶ原合戦の評価について、注目を集めた新知見を吟味し、総合的な歴史像を構築しておられます。
『城塞』
三部作のクライマックスは、大坂の陣を描いた長編『城塞』です。
江戸幕府を開いた家康が、豊臣家を滅ぼし、天下に対し徳川体制を不動のものとする総仕上げとしての大戦を描きます。
この大坂の陣の後は、約260年に渡って政権を争う戦いは勃発することなく、いわゆる太平の時代が築かれていきます。
戦国時代の最終章としての物語は、動乱期を生きた人たちのそれぞれの「最期」が多重視点で描かれている、なんとも胸に迫ってくる作品のように感じます。
以上、司馬遼太郎が描く家康伝として、『覇王の家』『関ヶ原』『城塞』とその時代の関連本をご紹介しました。
来年の大河ドラマ、楽しみですね!