木白谷 真貴

歴史小説を読むことが好きな主婦。 幕末維新期に関する作品をどんどん読み進めているうちに…

木白谷 真貴

歴史小説を読むことが好きな主婦。 幕末維新期に関する作品をどんどん読み進めているうちに蔵書が増えてきたので、noteを通じて体系的に整理しようと思います。

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【第1回】吉村昭 著 「牛」

幕末・明治維新への誘い〜点と点を結んで世界を堪能する〜19世紀中期から後半にかけて、約220年続いた鎖国の太平に風穴が開けられ、近代国家への転換を図るための革命的事件が各地で勃発した…それが日本の「幕末」「明治維新」です。ペリーの来航とか、尊王攘夷とか、新撰組とか…エピソードは聞いたことがあるけれど、全体として日本に何が起きていたかピンときていない、そんな人も少なくないのではないでしょうか? 私もその一人で、歴史小説を読んでいてもあまりにも事件やキャラクターが多く伏線も複雑

    • 【寄り道】司馬遼太郎の徳川家康を読む

      幕末についての小説作品を整理しようと始めたnoteでしたが、10月は早速寄り道をして徳川家康を読んでおりました。 徳川家康の古典とも言われる山岡荘八先生の作品は未読、安倍龍太郎先生による家康巨編にもまだ手を触れておりません。 もっぱら司馬遼太郎であります。 そして司馬遼太郎の家康といえば、三部作と言われる次の作品群です。 今月は『覇王の家』『関ヶ原』を再読し、満を辞して大坂の陣『城塞』を読んでいるところです。 『覇王の家』三部作の最初は『覇王の家』。 戦国の世を平げ、江

      • 【第16回】特集 司馬遼太郎の幕末維新期の短編を読む② 『酔って候』

        司馬遼太郎氏の幕末維新期について描かれた短編を読む特集、今回は『酔って候』収録作品を中心に読み進めたいと思います。 殿様たちの物語本書に収録されている短編は、ずばり藩主、すなわち「殿様たちの物語」です。 「酔って候」 土佐の山内容堂 「きつね馬」 薩摩の島津久光 「伊達の黒船」伊予宇和島の伊達宗城 「肥前の妖怪」肥前佐賀の鍋島閑叟 厳密にいうと「きつね馬」の島津久光は藩主の父(前藩主の弟)であり、国元では国父としての地位を確立しましたが、藩主としての資格は持たなかった人で

        • 【第15回】朝井まかて 著 『恋歌』

          今回は、明治の歌人、中島歌子の前半生とその終わりを描いた朝井まかて氏の小説、『恋歌』を紹介します。 江戸の豪商から水戸の武家へ和歌と書を教える私塾「萩の舎」を主宰し、明治時代の上流・中級階級の子女を多く集めて成功した中島詩子は、樋口一葉の師匠として知られています。 時代の寵児となり多くの門人を従え、妻子ある恋人との恋愛を謳歌するなど、自由奔放に生きていたかのように見えた彼女は、その前半生、それこそ時代の潮流に飲み込まれ、酸鼻を極める体験をしていました。 彼女の本名は中島登

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        【第1回】吉村昭 著 「牛」

          【第14回】特集 司馬遼太郎の幕末維新期の短編を読む①

          数多くの歴史小説を世に残した司馬遼太郎氏。幕末維新期の小説を読もうとしたら、彼の作品を抜いて語ることができないでしょう。 私が歴史小説を読むようになって4年ほどで、イコール司馬遼太郎読書歴です。 まだまだ未読作品が多いことは承知ですが、手元にある彼の作品から、短編集のみを引っ張り出して整理したいと思います。 本特集第1回は、対象となる作品を洗い出して一覧を作ってみたいと思います。 折角出版社が編集しているものを並べ替えるなんて、野暮なことは重々承知ですが、やっぱり「時代順

          【第14回】特集 司馬遼太郎の幕末維新期の短編を読む①

          【第13回】佐藤雅美 著 『大君の通貨 幕末「円ドル」戦争』

          安政の5カ国条約締結の前後に日本は開国し、長崎以外の地で外国との通商が始まります。このとき重要だったのが日本における為替レート。 今回は、日本国内のハイパーインフレを引き起こした為替レート交渉、戦いの顛末を描いた、佐藤雅美氏による経済小説、『大君の通貨 幕末「円ドル」戦争』を紹介します。 本作の発表は1984年、第4回新田次郎文学賞を受賞しています。 その後本人による全面改稿が施され、2000年に文藝春秋から刊行されました。 二人の外交官、ハリスとオールコック物語は、アメ

          【第13回】佐藤雅美 著 『大君の通貨 幕末「円ドル」戦争』

          【第12回】城山三郎 著 『冬の派閥』

          御三家筆頭として幕末政治に絶大な影響力を持った尾張藩の選択と、藩内部に生じた派閥同士の対立とその行く末を描いた城山三郎氏の小説、『冬の派閥』を紹介します。 御三家筆頭 尾張徳川家幕末の幕藩体制における重要なキーワードの一つ、御三家については、「【第6回】研究① 江戸時代をカタチづくるもの」でも触れてきましたが、またここでおさらいしたいと思います。 御三家とは、初代将軍家康の男系子孫が継ぐ、尾張徳川家、紀州徳川家、水戸徳川家のことを指し、これらは徳川氏のうち徳川将軍家に次ぐ

          【第12回】城山三郎 著 『冬の派閥』

          【第11回】星亮一 著 『井伊直弼 己れの信念を貫いた鉄の宰相』

          通商条約締結、将軍継嗣問題に揺れた幕府に突如現れ、日本史の大転換をはかった彦根藩主井伊直弼の生涯を描いた、星亮一氏の小説『井伊直弼 己れの信念を貫いた鉄の宰相』を紹介します。 部屋住みから藩主へ井伊は文化12年(1815年)、11代彦根藩主井伊直中の十四男として生まれます。 父の隠居後に側室との間に生まれた庶子であったことから、彼に藩政を藩政を担うことを期待する者などはおらず、埋木舎と呼ばれる屋敷で宛行扶持で暮らす生活が32歳になるまで続きます。 井伊の人生が動いたのは弘

          【第11回】星亮一 著 『井伊直弼 己れの信念を貫いた鉄の宰相』

          【第10回】宮尾登美子 著 『天璋院篤姫』

          今回は、13代将軍家定のもとに薩摩藩から輿入れした島津斉彬の養女・篤姫の物語、宮尾登美子氏による長編小説『天璋院篤姫』を紹介します。 最近、投稿が長くなってしまっているので(汗)、あらすじは講談社文庫の裏表紙からのご案内です。 大河ドラマ化

          【第10回】宮尾登美子 著 『天璋院篤姫』

          【第9回】研究② 日米通商条約勅許問題

          今回は、幕末期において、幕府と朝廷が対外政策をめぐり意見が対立するきっかけとなった、日米通商条約勅許問題とその後の展開について整理します。 朝廷に対する幕府の統制力江戸時代の国家権力、すなわち公儀は、天皇のおわす朝廷を組み込む形で構成されていました。 しかしながら、禁中並公家諸法度の制定、それに基づく紫衣事件(寛永4年・1627年)や尊号事件(寛政1年・1789年)に見てとれるように、事実上は幕府が朝廷を統制する権力を維持してきたのです。 ●紫衣事件…禁中並公家諸法度の規

          【第9回】研究② 日米通商条約勅許問題

          【第8回】司馬遼太郎 著 『世に棲む日日』(後編)

          司馬遼太郎氏による『世に棲む日日』、後編では、全4巻中後半の主人公、高杉晋作を中心に物語を追っていきます。 革命を導いた長州の天才軍事家・高杉晋作萩城下の藩士として生まれる 高杉晋作は天保10年(1839年)、 長州藩の中級藩士、高杉小忠太の嫡子として萩城下に生まれました。 13歳の時に藩校明倫館に就学し、長州藩剣術師範の内藤作兵衛より柳生新陰流の免許皆伝を受けます。 松下村塾に入門したのは安政4年(1857年)、翌年には文学修行の名目で江戸遊学が許され昌平坂学問所に入

          【第8回】司馬遼太郎 著 『世に棲む日日』(後編)

          【第7回】司馬遼太郎 著 『世に棲む日日』 (前編)

          今回は、山口は長州に生まれた革命家・高杉晋作と、その思想の師匠である吉田松陰を主人公にした長編小説、司馬遼太郎氏による『世に棲む日日』を紹介します。 徳川体制の終結を先導した幕末の長州藩において、一際存在感を示した二人の藩士、吉田松陰と高杉晋作。思想家となりその過激さから安政の大獄で処刑された松陰と、その門弟で松陰の意思を継ぎ革命を導いた晋作の生涯、そして長州藩が、開国か攘夷かに揺れる日本にさらなる揺さぶりをかけていく革新期の様相を、ダイナミックに描いた作品です。 長州藩

          【第7回】司馬遼太郎 著 『世に棲む日日』 (前編)

          【第6回】研究① 江戸時代をカタチづくるもの

          260年間の泰平の世「徳川の平和」パクス・トクガワ徳川家康による江戸開府から王政復古までの約260年、日本では江戸幕府の強い統制のもと、革命や大きな内乱がない泰平の世が続きました。この状態を「ローマの平和」に並ぶ「徳川の平和」、パクス・トクガワといったりします。 世界史上でもまれなほど長期間にわたって平和が維持された江戸時代ですが、一方で、強固な身分制のもと、支配階級である武士に対してそれ以外の階層に置かれた者が不当な扱いを受けたり、権威による搾取や貧困から逃れられなかった

          【第6回】研究① 江戸時代をカタチづくるもの

          【第5回】福澤諭吉 『現代語訳福翁自伝』 齋藤孝 訳

          福澤諭吉の「福翁自伝」は、岩波文庫、角川ソフィア文庫、講談社学術文庫などさまざまな出版社から発行されているところですが、ビギナー向けとしては、ちくま新書は齋藤孝氏による現代語訳が読みやすいのではないでしょうか。 近代日本最大の啓蒙思想家・福澤諭吉の自伝と言えば、高い精神性や学問に対する探究心などについての格言が多そうで、言い方を変えるとちょっと敷居が高そうな感じ。 しかしながら齋藤孝氏による現代語訳のこのエッセイは、読みやすい現代的な文章で、福澤の豊かな人間性を知ることがで

          【第5回】福澤諭吉 『現代語訳福翁自伝』 齋藤孝 訳

          【第4回】藤田覚 著 『幕末の天皇』

          今回は小説作品ではなく、幕末時期の天皇について詳細に解説した藤田覚先生による『幕末の天皇』(講談社学術文庫)を紹介します。 「光格がこね 孝明がつきし王政復古餅 食らうは明治」近代天皇制を生み出した、18世紀末から80年にわたる朝廷の"闘い"のドラマ…。 幕末政治史の表舞台に躍り出た光格と孝明の取組から、「江戸時代の天皇の枠組み」を解明しています。 戦国時代の群雄割拠を終焉させ天下統一を実現した3人の英雄については、「織田がこね 豊臣がつきし天下餅 食らうは徳川」と言い表

          【第4回】藤田覚 著 『幕末の天皇』

          【第3回】吉村昭 著 『黒船』

          「泰平の眠りを覚ます上喜撰(じょうきせん) たつた四杯で夜も眠れず」「泰平の眠りを覚ます上喜撰(じょうきせん) たつた四杯で夜も眠れず」…これはペリーが四隻の艦隊を率いて浦賀に来航したとき、沿道の人々の間で読まれた狂歌です。 巨大な外国船に大騒ぎする雰囲気が伝わってくるようですね。 鎖国体制に揺すぶりをかけてくる外国勢力の象徴として、「黒船」は当時の日本の人々の心に大きな印象を与えました。 今回はこれをタイトルに冠した作品を紹介します。 オランダ通詞 堀達之助の物語『黒船

          【第3回】吉村昭 著 『黒船』