第八章:自社営業との関係性 『THE PARTNER SALES』

 パートナーセールスの成否を左右するのはパートナーや市場だけではありません。自社の営業チームとの関係性についても留意する必要があります。ダイレクトセールス、パートナーセールスの両チームが組成されている場合、共に営業機会を最大化しようとしますから当然カニバリゼーション(共食い)が発生します。したがって、その前提に立って全体最適な営業方針を決定し、その方針に沿って(少なくとも矛盾しない)組織体制を構築することが大切です。本章では、組織体制や人事評価といった経営視点に近い話題についても取り上げてみます。

営業組織体制が成功を左右する

 ダイレクトセールスとパートナーセールスとの間にカニバリゼーション(共食い)は必ず起こります。同じ会社の同じ部門に所属するダイレクトセールス同士でさえカニバリゼーションを避けることは難しい※のですから、社外のパートナーが関与するなら尚更でしょう。しかし、カニバリゼーションが起こるのはそれだけ営業活動が活発化している証とも言えるでしょう。したがって前向きに受け止めつつもデメリットを最小化できるよう、制度を整える必要があります。

※ただし、ダイレクトセールス間のカニバリゼーションは必ずしも回避できないわけで無いことを言及しておきます。例えば、セールスフォース・ドットコム社では各セールスに郵便番号単位で担当エリアが割り当てられます。そのエリアはリード発生数などのデータにもとづいて区切られており、担当ごとに不公平が生まれないようにしているようです。なお、このように担当エリアを明確に分けるならば、当然他のセールスはそのエリアに干渉することはできません。「他のセールスなら受注できたかも知れないのに」という失注も受け容れないといけないのです。セールス間のカニバリゼーションを減らすということは、企業としての各セールスに対する信頼なしには成り立たないことも理解しておかなければなりません。

ダイレクトか?パートナーか?

 ダイレクトセールスとパートナーセールスの間のバランスの取り方は、普遍的な答えがないだけに永遠のテーマかもしれません。けれどもその指針については一考の価値があるでしょう。

・利益の観点から考える

 まず利益について考えてみることにしましょう。ダイレクトセールスの方が中間マージンがない分、パートナーセールスに比べて利益は高くなります。したがって、案件単位で考えればパートナーを介さずに受注する方が合理的だと言えるでしょう。
 しかし、パートナーセールスの真価は利益率の高さではなくレバレッジ(てこ)の大きさにあります。たとえば、1ヶ月間にダイレクトセールスであれば利益100万円の案件を3案件ほど受注できるとしましょう。この間にパートナーセールスだと利益50万円/案件を10案件ほど受注できるなら、パートナーセールスを増員すべきだと考えることもできます。言うまでもありませんが、利益率のみでなく金額の大きさにも目を向けなければなりません。
 目先の利益を優先してパートナーとの信頼を損なってしまうと、先々の機会を失ってしまいます。パートナーの提案活動がきっかけで案件化した顧客を奪うのは論外です※。顧客がみなさんとの直接取引を望むこともありますが、パートナーとの関係性を考慮すれば、その場合でさえパートナーを優先すべきでしょう。むしろ自社への問い合わせから生まれた案件をパートナーに提供するくらいの器量で取り組んだ方がパートナーセールスはうまくいくと考えています。

※パートナー発端の案件を自社で奪うなどあり得ないと思われる方もあるかも知れませんが、意外とこのような問題は発生します。事情を知っていて奪うことは、よほど数字に追われている営業担当でなければしないでしょうが、案件の存在を知らずにバッティング(衝突)してしまうことは情報共有が徹底されていないと頻発します。この場合、(1)社内の案件情報の共有か(2)パートナーとの案件情報の共有のいずれかに問題がありますので、(1)であれば例えばSFAへの情報入力と新規営業アプローチ時のSFA確認を徹底させる(2)であれば案件として報告がなかったものについては万が一自社で受注した場合もやむなしとするという事前のルール設定などによりトラブルを回避することができます。

・市場の成熟度の観点から考える

 また、市場の成熟度によっても適切なバランスは変わるでしょう。
 市場または製品が未成熟である場合、パートナーセールス活動をはじめるには時期尚早です。なぜなら、その市場が未成熟である場合には顧客を啓発して需要を喚起する必要がありますし、製品が未熟である場合にはPMF(プロダクト・マーケット・フィット:製品を市場ニーズに合わせること)のために細かな情報をヒアリングする必要があるからです。PMFのための活動はパートナーからしてみれば売れるか判らず、かつ中間マージンしか得られない商材に時間を費やすことです。奇特なパートナーでない限り熱心な活動は見込めませんし、パートナーセールスの費用対効果も低い傾向にあります。
 しかし、顧客層がアーリー・アダプターからアーリー・マジョリティに差し掛かる頃には、アンテナの高い企業は先行者利益を得ようと話にパートナーシップの話に乗ってみようと考えはじめます。そこからはパートナーセールスに一気に舵を切っても良いでしょう(もちろん、製品特性を見極めた上でのことですが)。特にみなさんのプロダクトが先進的であるなら尚更です。市場がブルーオーシャンであれば、営業スピードが市場シェアに直結します。営業人員は多いに越したことはありませんから、パートナーの手を借りて一気に市場への影響力を高めるべきでしょう。二の足を踏んでいるうちに競合他社がパートナーと組んで市場シェアをおさえてしまったら、巻き返しはかなり難しくなってしまいます。市場が成熟していくにつれてパートナーの存在感は大きくなっていくのです※。

※ただし、成熟市場においてもダイレクトセールスの重要さには変わりありません。知名度の高い企業や大企業など、市場全体に影響を与えるような企業についてはダイレクトセールスが粘り強く案件化を図っていくべきでしょう。

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タイトル:THE PARTNER SALES ー3名の営業チームで3,000人の営業組織を味方につける営業理論 パートナーセールスに関す…

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