HR業界に出入りして見えてきた、IT業界が越えなければならない人的課題
早いもので現職で人材紹介事業の技術顧問として3年目になりました。主にフリーランス・正社員紹介のエージェントの専門性向上を達成するべく教科書の編纂、職務経歴書レビュー、勉強会などを実施してきました。丁度良い節目ということもあり、この2年、社員達に訴えてきたことをここにも記しておきます。
今回お話をするのは長期的な視点に立った場合、早期に解決しなければ日本のIT業界全体に暗雲が垂れ込めるであろう4点です。トップ画は沈んでますけども。
1)プログラマの入り口
2017年頃。就活生で有償のプログラミング学校に通う人はレアでした。某学校のある期では社会人25名程度に混じっていた新卒は3名だったと聞いています。当時は意識が高い・覚悟があると評されていた新卒におけるプログラミング学校ですが、2020年現在では一般的になっています。
プログラマを志すのは大学生だけではなく、社会人の方も増えました。プログラミング学校が乱立・過当競争になり、売り文句が過激化していった2018年−2019年。「現職より100万円多い給与」を信じた方は目の前に提示された年収200万円台に目を疑い、「1年でフリーランスになれる」と信じた方は忠実に1年でフリーランスに転向し、「自分を追い込むためには退職して背水の陣で挑むことが必要」だと言われて信じた人は前職のある程度の地位を捨てて転職活動をしています。どういうことでしょうか、これは。
3年ほど前、プログラミング学校卒業者を集め、彼らを叱咤激励しながら事業を作り、今は事業もエンジニアも成長して形にしていった企業はいくつかあります。しかし社員が育った今、同じ経路からビギナーを求めている企業は少ないのもまた現実です。
これは私の考えですが、特に一つ目のプログラミング言語の習得方法は大学の受験勉強方法として何を選択するかに似ています。
・勉強しない
なんか居ますよね、天才
・参考書・通信教育
自分自身で習慣づけ、自発的に取り組む方法
・家庭教師・放課後の学校教師への質問
詰まったポイントを信頼のおける経験者にサポートしてもらう方法
・予備校
高額。カリキュラムなどもある。しかし行ったことによりできた気持ちになる人達が一定数いる
プログラマというものは別に資格が必要なわけではありません。入社したら学習が終わるものでもありません。本来であれば学習の習慣付け、学習環境の構築方法を身につけるべきだと考えています。
プログラマにどうすればなれるのか、あるいは後述するリラーニングなども含め、表層的なHowToは世の中に氾濫していますが、順を追ってコンピュータサイエンスや実務にも寄り添って実現しているものはまだ無いのではないかと思ったりする今日この頃です。・・・作れば良いのか。
2)高度人材、学術−ビジネスの橋渡し
博士課程、博士持ちの活用が控えめに言って日本は下手です。あと雑。そして2012年当時の私も含め、博士は博士で視野が狭い。
ビッグデータ・AIブームのときに数学の強い分野の博士が重用されたり、ここ数年は海外に渡って高年収を得るというパスも存在しました。
しかし前者は椅子取りゲームの椅子が飽和しつつあります。DXの中に含まれるAIに望みをつなぐことになりますが、あちらは随分と実務よりなのでこれまでの「なんか分からないけど難しそうなので博士持ちに丸投げ」でまわるかというと違いそうな気がしています。キーワードはBizへの興味だと考えています。
後者は言わずもがな、コロナ禍で随分とぐちゃぐちゃになってしまいました。いつ通常復帰するか分からない今、できるパスを探るべきでしょう。
この項目のビジネスと学術の双方の歩み寄りが課題です。しかしながら市場が小さく、事業として意欲的に橋渡しを取組むプレイヤーも企業も少ないのが実情です。博士側からのコンタクトも少ないのですが、TwitterDMなどでお待ちしています。
3)ミドル、定年に向けてのキャリアパス
コロナ禍で一時は落ち着くかと思われましたが、ITエンジニア若手経験者層の転職市場での存在感は根強く、依然としてバブルの様相を呈しています。
バブルというのはバブルの恩恵を享受している人はバブルだと気付かないという傾向…というより症状があります。
バブルの最中の人は自身を持ち上げている世間の風潮は自身の努力の結果であり、その繁栄は永遠だと思いがちです。弾けてからあれはバブルだったのだと気付くのです。そして弾けに備えてタイミングを察知するのはもっと難しいです。ITに関して言えば参入してくるプレイヤーが増えてきたり、お金の話をゴリゴリする人が集まってくると怪しいように思います。
Q.ITエンジニアのバブルはいつまで続くのでしょうか?
A.この答えは西暦で答えるのは違うように感じています。20代-30代前半までの期間がバブルであり、ボーナスタイムなのだと考えています。現在の転職市場を見てみると35歳で企業ジャッジがシビアになり、45歳になると求人票が見つかりにくくなります。
Q.ITエンジニアは今後も需要が高まっていくのではないですか?DXを達成した際には成長スパイラルのドライバとして必要不可欠なのではないですか?
A.この質問には2つの観点が必要です。
1つは技術の更新とプレイヤーの変遷。ある日突然、花形だった自分の守備範囲が巨大なプレイヤーが登場したり、自動化されたり、あるいは緩やかにブームが過ぎ去ったり、価格競争に突入したりします。現職について程なくして、とある先生にエンジニアのキャリアパスの重要性と共に「技術力が現役だったときは引く手あまただったが、トレンドの変遷と共に退職を余儀なくされた半鑽孔テープの専門家」のお話をしていただいたことがあります。まぁ、私のP2Pも大概ですけどね。
2つ目は若手の台頭です。幼少期からプログラミングに触れた天才がやってきます。これは何もスタートダッシュ(英才教育)の話だけではありません。
・情報端末の反乱
幼少期からiPadを使いこなすなど、所謂デジタルネイティブ
・レベル別・年齢別教材の登場
・言語の高級化
序盤に躓きがちなメモリ管理、プロセス管理などは言語やフレームワークが吸収してくれ、成功体験が早く積める
・文献の充実、フリーで公開されているソースコードの充実
「巨人の方に乗る」
・QAサイト、質問環境の充実
・可処分時間の増加
今は減ったと聞きますが、学校主催の部活への強制参加は結構なオーバーヘッドでした
条件だけ比べてみても若手の方が有利です。現に弊社のフリーランス事業でも10代の登録が見られています。これを読んでくれている方が仮に20代の飛ぶ鳥を落とす勢いの若手エンジニアであっても、5−10年後は更に若手に追われる側に回ります。加えて結婚や出産などのライフイベントによりプライベートの時間配分が変わった結果、それまでのように学習時間を当てられなくなったエンジニアは数え切れないほど居ます。
将来的には恐らく誰しもが一度以上はキャリアチェンジも含めた立ち回りを迫られることになります。尤も、このお話は若手にはかなり想像力を要する話なのでただ辛気臭いだけの話に聞こえてしまうため響かないのが残念です。それは一種の時限爆弾のようでもありますが、恐らく今に始まったものではなく、きっとプラトンあたり、遺跡の壁にでも書いてあるんじゃないかと思っていますが。
WEB界隈では年齢の先頭集団でいうと40歳前後。時代の流れを加味するとエンジニアのキャリアの道筋を無用に固定することはできませんが、せめて明るいのか暗いのかは若手に示す必要があると考えています。
2020年夏というエラいタイミングでのミドルの転職事情については近いうちに出す予定です。
4)人手不足:とにかく人が居ないし、お互いに選り好む
労働人口の不足。そして高度専門人材の不足。どこまで行っても足りないと言われる現状ですが、企業は誰でも良いとは言っていませんし、できるエンジニアもどこでも良いとは言っていません。
従来型の新卒一括採用、終身雇用モデルではエンジニアキャリアを左右する企業イベントはこのようなものかと思われます。エンジニアの入口から出口までとお考え下さい。
・採用
・研修
・評価
・昇進、異動
・定年
これがジョブ型が適応され始め、かつ売り手市場にあるエンジニア市場では、企業イベントが増えます。勢い、ジンジニアと共に採用を強化したり、VPoE(EM)のような職務が誕生して定着性を図ったりするに至っています。
・採用(マッチング、スカウト、広報など)
・オンボーディング(チームビルディング)
・エンゲージメント(1on1、サーベイなど)
・評価
・スキルアップ/リラーニングの機会提供
・キャリアパスの提示
・キャリアチェンジ
・定年(いつ?)
こうしたイベントが増えたということはそこにリソースを割かねばならない人が居るということです。組織、社会でトータルで見たときに従来型の働き方と比べて本当に生産性が上がっているのかは気を付けねばなりません。特にDXの一つのテーマはアジャイルですがやり方が間違っていたり、浸透が中途半端だと生産性が却って下がる組織はあるでしょう。
労働資源工学
このようにコロナ禍でも雇用については明るめの話題が見られるIT業界ですが、取り組むべき課題は多く、その課題に絡まる要素も多数存在します。
今回述べたような人的資源(HR)のみならず、AIも業務に組み込まれ、労働を巡る環境の変遷も発生しています。構造的なアプローチなくしては中長期的なプランも立てられない状況です。 人、AIといった労働資源を最大化する論理が求められる中、それを労働資源工学と呼び、noteマガジンとして継続してまとめていきたいと思います。学問にもなりえるんじゃないかなぁと思案しています。
と、いうわけでnoteマガジン労働資源工学研究書(所)をよろしくおねがいします。