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見た後にどうするか〜『あんのこと』感想(ネタバレあり)〜
(以下、映画『あんのこと』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)
『あんのこと』を見に行きました。
私が見た上映回は、休みの日ということもあってか満席で、今作の注目度の高さを実感することができました。
映画を見ながらずっと、人に「普通」を押し付けてしまうことの危うさを感じていました。
主人公の杏は、「普通、義務教育受けてるよね?」「普通、家族と一緒に暮らせるよね?」「普通、その年齢だったら働けるよね?」と周りから「普通の生き方」ができないことを責められ、「自己責任」の名のもとに追い詰められていきます。さらに、そこから一度は自立していく道を見つけたと思った矢先にも、政府の「普通、少しの期間、家から出なくても、暮らしていけるでしょ?」というコロナ禍への場当たり的な対応によって、人とのつながりを絶たれて孤立してしまいます。
生きていくうえで直面する苦難は人の数だけあるはずなのに、人々が、世間が、行政が、政府が、その多種多様な苦しみに気づけていない。もしくは、見て見ぬふりをして、自分自身も周りの人も「普通の人」だと思い込んでいる。そんな、日本の社会の様相が、スクリーン上でまざまざと観客に向かって映し出されていたようでした。
また、今作は、実際に起こった事件を「物語」にするうえで、その「物語」をエンターテインメントとしてのみ消費されないよう、細心の注意が払われていたと思います。それは、登場人物たちが「善人」、「悪役」、「主人公の前に立ちはだかる障壁」などわかりやすい役割に落とし込まれず、「こんな悪事を働いてたけど、主人公のためには全力で頑張っていた」など、それぞれ複雑なキャラクター設定をなされていることからうかがえます。さらに、「物語」全体の構造も、「悲しい話」、「感動させる話」、などわかりやすいフォーマットに陥らないよう作られていたと感じました。
今作を見て「ああ、よくできた映画だったなあ。」と、次の日には忘れて終わりにしてしまうのではなく、このようなことが繰り返されないために、セーフティネットが適切に機能するよう私たちができることは何なのかを考え、行動していくことが必要なのだと思います。
日本では、東京都知事選が7月に行われますが、今年2024年は世界中で大きな選挙が相次ぐ、世界的な「選挙イヤー」となるのだそうです。弱いものに厳しく、強いものにはとことん優しい、そんな政権や首長に対して、投票を通じてNOを突き付けるべきだと、映画を見終わって考えました。