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監督の手腕がさえわたる〜『リアル・ペイン~心の旅~』感想(ネタバレあり)〜
(以下、『リアル・ペイン~心の旅~』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)
ジェシー・アイゼンバーグが監督として、『僕らの世界が交わるまで』に引き続き、またしても上質なコメディ映画を届けてくれました。
主人公2人が抱える生きづらさをホロコーストと織り合わせて丁寧に描いていきますが、語り口はあくまでも軽妙で、監督の手腕が冴えわたっています。
ベンジーやツアーの仲間たちとのやり取りに四苦八苦するデヴィッドの様子には、笑わせられながらも「これって、僕のことじゃないか!」と心の中で叫んでしまいました。
マイペースで明るいヤツが始めたおふざけに、「これやったらまずいんじゃないかなあ。」と乗りきれなかったら、結局みんなでそのおふざけに乗っかっていて、でも今更そこに自分は乗っかれなくて、何か僕だけノリ悪いみたいになったり。
全然返信が来なくて心配して何度も何度も何度も連絡してるのに、連絡を返さない当の本人は悪びれもせずケロりとしていて、拍子抜けしたり。
こちらとしては気を使ってコミュニケーションしてるつもりでも、全然人と打ち解けられなくて、結果的にはデリカシーがない奴がみんなと仲良くなって自分は蚊帳の外になっていたり。
挙げ句の果てには説教まで喰らったりして。
ジェシー・アイゼンバーグの見事な演技を堪能しながらも、自分のこれまでの振る舞いを見せられているようで、「わかるよ、デヴィッド!わかるよ!」
とちょっと熱い気持ちになってしまいました。
ツアーガイドの、ベンジーに対するのとはあからさまに違うデヴィッドへの別れの挨拶に、場内から笑い声が聞こえましたが、僕はいたたまれなくなって笑いが引き攣りました。
デヴィッドの苦悩だけでなく、自由に生きているように見えるベンジーが抱える孤独も描きながら、ひっぱたかれた頬の側にタイトルが出るラストまで90分というタイトな上映時間で、見事に多層的な物語をまとめ上げており、見応えのある一本でした。
全編に流れるショパンのピアノ曲も心地よく、あからさまに客を笑わせようとしない、グラデーションを持った上品なトーンの映画ととてもよく合っていました。