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もろい春①_小説_なぜ彼女は死んだのか
「月嶋美玲が自殺、度重なる疲労の限界か」
「月嶋美玲、自宅マンションにて自殺」
「自宅には大量の睡眠薬」
午前七時。どの情報番組をつけても、美玲が死亡したというニュースが流れていた。
彼女の若すぎる死に私は驚愕した。
いや、マスメディアの大々的な取り上げ方にショックを受けていたのかもしれない。
しかし、私は自分が非情なのかと疑うくらい、ひどく落ち着ついていた。
もう十五分もテレビ画面にかぶりついていた口からは、大きく膨らんだ歯磨き粉の泡をぬって唾液がしたたり落ちていた。
その瞬間、自分が自覚をしていないだけでちゃんと動揺している事に気付きホッとした。
CMに入ったのを確認すると口元をティッシュで抑えながら洗面所へ急ぐ。
鏡の前に映るツルツルしたすっぴんの自分が急に幼く見えた。
今日が日曜日で良かった。
風に揺らめく庭の椿が窓越しから見える。
まだ白く、明るいその日差しに今日が長くなることを何となく予感させられた。
リビングに戻り、黒皮の2人がけソファに寝転がったそのとき、ロングスカートの右ポケットからバイブ音がした。スマートフォンを取る。
やはり由香子からだった。
「ニュース見た?」
きっと美玲のことだろう。人差し指を上にスワイプして返信画面を開く。
「見た。びっくりだよね」
紙飛行機の形をした送信ボタンを押すと、私はぎゅっと目を瞑り、昨夜コンビニで買った紙パックのオレンジジュースを手に取った。
「いま、5チャンで詳細やってる」
由香子の暗黙の「見ろ」というメッセージを受け取った私は、ストローを加えながらリモコンの5の数字を押した。
整った眉をキリっと上げたコーラルピンクの口紅が賢そうな女性アナウンサーが、淡々と原稿を読んでいる。彼女によると、美玲の自殺経緯はこうだ。
一昨日4月3日、TVドラマの撮影をクランクアップした彼女は、帰宅後、今後の予定についてマネージャーと電話で話をした。
いつもと変わりない様子だったと言う。
しかし、翌日の雑誌取材に姿を現さなかった彼女を心配したマネージャーが自宅を訪ねると、そこには既に息絶えた美玲が横たわっていたという。
友人の訃報をこんな形で知ることに私は居心地の悪さを感じていた。
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏つづく