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上手く殺せたのか、そして殺されるのか。

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朝ドラ15分で映画2時間分観たような感覚で読み終えました。密度は濃いのにあっという間です。
ほぼほぼ、本書で紐解かれた歴史と併走し同じ過程、同じ陥穽を経験し、それをなぞってきました。
母の代替相手を求めた厩戸皇子や必死でケアしまくる凪は、自身の写し鏡です。
読んでいる間ずっと、上手く殺せたか。
そして、殺されているのか。
その問いを、ずっと行き来していました。
著者は多くの虚構が自分の母殺しであったと言います。
そうしてきたつもりでありました。
母の圧力から逃れるために、それこそ虚構はもちろん心理学の本を読み、答えというより自分を納得させ、対抗できる知恵をつけて、対決のためのアイドリングしていました。出てくる作品群その他、多くを学んで来た筈なのに、成人して、きっちり父性不在の子育てが始まってしまいました。しかし子育てに関しては、慎重に母子密着では無い子育てを目指して必死になってやってきました。自分なりに対策を立て父性不在で母子密着を避けるために試みたのが、『子育ては外注』でした。
本書の結論のように子育てには他者の介在が不可欠です。それでも親の側からのアプローチはどうしても密着になってしまうかもしれません。ならばメンターとなりうる人に任せるか、多くの大人と出会う機会を増やすことが最適と考え、外部のサークルに参加し、虚構はどんどん摂取せよ。というスタンスでやりました。それでも自分自身基本的にケアするのが身についているので、つい可愛い子どもたちに手を差し伸べてしまう。ならば物理的に距離をとるのが望ましい。18歳になったら強制的に家を出よ。を課しました。
住んでいる地方都市では、バブル期ならいざ知らず周囲は子どもを外に出したりません。それは自身が家を飛び出した頃より経済的にもどうやら難しくなっています。
本書には専業主婦の影響の指摘があり1970年代から親のモデル探しが始まったとありますが、それまで母親というものは規範の塊、『躾をする性』としてガチガチに頭が固いものでした。子どもが大事にしているものを平気で捨てて当たり前という親がデフォルトで、少女達は自分たちの世界観を理解してくれる親の出現を待ち望んでいました。親の固さに嫌気が差しているからこそ理解ある親が描かれる作品にシフトして行った頃です。こうした漫画を経て、それを読んだ世代は『友達親子』に違和感がなく、それが当たり前になってきたという肌感がありました。
本書はその肌感を言語化して明瞭になっていく過程が分かりやすく解き明かされていて頷くしかありません。本当に自分が人生でなぞって来たことが克明に書いてありました。
友達親子はいいけれど、弊害はありました。毒親もそうした土壌に出てきた概念なのではないかと思います。
腐っても親なので本当に友達になってはだめなのです。
親は子どもとの境界を必ず自覚しなければならない。常にチェックが必要で子どもに向き合い真摯にその幸せを願い模索する。これが親のすることです。
自身のカウンセリングを子どもにさせてしまう親、『ケアする娘』や、叶わなかった自分の夢を娘の身体で実現しようとする『娘に人生を仮託する』など。本書に並ぶ語句のこれらは、やってはならない。と自分に課した事柄でした。
「できているだろうか」。
本書を読みながら、そこだけが気になっていました。
答えはわかりません。
やれるだけはやったけれど、それこそ都合の良い判断をしているのかもしれない。
子どもは親殺しという通過儀礼を経て大人になります。(親として機能していれば、ですが。)父殺しは長い間議論がありましたが母殺しは脈々とあったのにも関わらず遡上にはあまり載らなかった。女性の問題が隠匿されていた証左でしょう。
上手く殺せたか、上手く殺されているのか。
どちらにせよ、どちらかが亡くなるまで関係は続くのです。
本書は規範から離脱のために欲望を起動させよ、と謳います。子どもは必死に母の規範から外れても関係が続くかぎりその規範を出たり入ったりを繰り返して生きていくしかない。そうして自分なりの親との関係を作っていくのです。極端な話、「和解せず」という結論だって良いのです。
引用された書籍など、ここまでのさまざな議論は母親に向けて自覚を促すものでした。それらを養分に私は親の加害を自覚できました。しかし、著者は娘に向けての視点に重きを置いて書いています。娘として読んだ時には頷けるのに娘からの視点については居心地が悪い。読みながらそわそわしてしまったのはそこを気にしていたからなのです。
新旧含め「すべての娘たちよ。先ず、母の規範からいでよ」。というところでしょうか。

本書を読みながら、過去に読んで共感した漫画や虚構達は時代を写しながら様々な影響を与え、一歩先を行っているものなのだと改めて認識しました。センシティブに母娘の問題を描いてきた少女漫画はもっと評価されるべきであり、本書は母娘問題を鋭く解析し、父殺しだけでなく母殺しを華々しく遡上にのせ知らしめるエポックメイキングな1冊になるでしょう。
今苦しんでいる娘たちのためにも、そう願います。


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