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ガラスの戸棚の向こうから、ティーカップがこちらをみてる


高級なティーカップが好きだ。
狂おしいほどに。

そのなめらかで優美なフォルム。
繊細な作りの取手。
美しいブルーのアラベスクと金の縁取り。

見ているだけで惚れ惚れする。
どうしてこんなに心惹かれるのだろう。

思い返せば、小さい頃よく母に純喫茶に連れて行ってもらっていた。
サイフォンでコーヒーを淹れるような、そんな素敵なところ。
そこの食器が素敵だったな、と幼い記憶の中でほんのり思う。

子どもの頃から、きれいな器に入ったいい香りの飲み物が本当に好きだったのだ。

落ち込んだ時、デパートの高級食器売り場を見て歩くと元気になった。
ツヤツヤ光る美しい食器を見ていると、辛さは吹き飛ぶのだ。

……でも美しい食器のことなんて、しばらく忘れて過ごしていた。

そんなとき、旅先でとあるカフェに訪れた。
よく磨かれたダークブラウンの木で出来た戸棚のガラスの向こうに、ティーカップがいた。
じっと、蠱惑的な眼差しで私を見つめていた。

あぁ、やっぱり好き。
忘れていたティーカップがへの想いが心の奥底からゆらりと湧き上がった。

いつもどんな時も、昔から好きなものは変わらないんだな、と改めて感じた。
いつか自分のために一揃い買ってみたいものだ。

《おわり》



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