紫式部日記第86話大納言の君の、夜々は御前にいと近う臥したまひつつ、
(原文)
大納言の君の、夜々は御前にいと近う臥したまひつつ、物語りしたまひしけはひの恋しきも、なほ世にしたがひぬる心か。
浮き寝せし水の上のみ恋しくて
鴨の上毛にさへぞ劣らぬ
返し、
うちはらふ友なきころの寝覚めには
つがひし鴛鴦ぞ夜半に恋しき
書きざまなどさへいとをかしきを、まほにもおはする人かなと見る。
※大納言の君:中宮付き女房、中宮のいとこ。
(舞夢訳)
大納言の君が、毎晩中宮様の御前近くで伏していた時に、いろいろお話してくれた雰囲気が懐かしいと思ってしまうのも、結局私も宮仕えという世界に浸ってしまっていることなのでしょうか。
あなたと仮寝をした中宮様の御前だけが懐かしくて、(今の里で独り寝する冷たさ、寂しさは)霜が降りた鴨の羽根にも勝るとも劣りません。
(大納言の君様の返し)
羽根に降りた冷たい霜を互いに払い合う友がいなくなった真夜中に目覚めては、一緒に暮らした鴛鴦(貴方)のことが恋しくてなりません。
その返しの歌だけでなくて、文字まで素晴らしいので、実に素晴らしい人と思いながら読むのです。
慎重な紫式部であっても、多少は心を許す相手もいた。
手紙で、交流する場合もある。
宮仕えのストレスを、互いに慰め合っている。