最初に座った席が好き COFFEECHROME
全部の駅に降りたことがある路線って山手線ぐらいじゃないかな。いや山手線も危うい。
東京にずっと住んでいても降りたことのない駅の方が多い、実家のある路線なのに全く知らない世界があって旅行、小旅行がすぐそこに大量にある。
西武新宿線の各停しか止まらない駅、野方を降り、住所的には中野区なのでそれなりの都会感と武蔵野の雰囲気が混ざり合ったローカル駅はクローンみたいに似てるところがおおいなと思いながら商店街を目指さないで歩く。
初めて行った時も雨で、また雨だった。
雨のモーニングはとても良い。
本当にあっているかなと思うくらいの住宅街の、不安になる一瞬前に店が現れる、控えめに見えるグレーのドア。保育園に子供を送った後かなと思う大きい自転車が行き交っていて生活が近い。
入ってすぐ左の丸いテーブル席にきめる。
ガラス越しの野方観察も、ちょっとお尻を傾ければ店内に浸ることもできそうで、雨だし、ああもう空間が出来上がっていてここのテーブルも始まりました、いま、一日が、みたいな気持ちになる。
カウンターに向かい、フラットホワイトがあったことで幸せが上乗せされ、アーモンドミルクがあったことでなんだなんだ偉大、ではオムレツも、、と卵も大好きな私はすごい好きですたまらないですと言ってしまいそうな気持ちを腹に込めて静かな人風にオーダーを決めた。静かな人風はたまにやるけどマスターに影響されて発生することが多い。
静人のまま待っていると、とんでもないフラットホワイトが登場した。
ペガサスが浮いてる。え、これは確かにとんでもないやつでは?!?!?!野方?!?!?!
と実家のあるせいでどうしても一瞬西武新宿線をみくびってしまう癖が出てしまい、一枚だけ許せーと写真を撮った、そして調べた、神さまみたいなマスターだった。
フラットホワイトは苦く濃く最高に美味しくペガサスは全体的にびくともせず鎮座し続けたのに端っこを私に吸われてしまった。おいしい。本当においしい。まだあるのにおかわりしたいこの気持ち。
ほどなくオムレツが登場した。マスターはすべすべつやつやのえびオムレツを置いて完璧なテーブルを仕上げ、ごゆっくり、と静かに声をかけて一人の空間に引き戻してくれた。
こんなに好きなものばかりを全部完璧に作って持ってきてくれる人がこの世にいるんだなあと思った。添えられたバゲットの焼き方までもが好きだった。
食品サンプルにナイフを入れるようで躊躇する、ごめんねとオムレツをさくりと切ってもちろんとろっと仕上げられた卵にもう驚かない、完璧は知っていたので。静かに一口食べてからバゲットに乗せて幸せ幸せ幸せと味わった。頭から湯気が出そうだった。
野方の路地は結構忙しなく、雨が降り続けていても人は行き交っていて、日常を眺めさせてもらいながら特別を味わった。近くにあっていいなと思う気持ちと、頑張って辿り着くぐらいの距離で良かったと思う気持ちは両方とも自分だった。好きなものは最後にゆっくりゆっくり味わいたい。次も雨だといいな。