吉田 真以

パリ生活20年目。 日々の生活で感じたこと、出会った人々、日本とフランスの違いなど。 四季折々のパリの日常スナップはインスタに載せています。

吉田 真以

パリ生活20年目。 日々の生活で感じたこと、出会った人々、日本とフランスの違いなど。 四季折々のパリの日常スナップはインスタに載せています。

最近の記事

祖父が遺してくれたもの

母方の祖父が亡くなって数週間。 もし生きていれば、今日で90歳だったけれど。 訃報が届いた朝からずっと感じているのは、胸が引き裂かれるような強い悲しみではなく、底のない宇宙のような暗い穴にゆっくりゆっくり落ちていくような感覚。 日常生活を送っていても、なんだか頭の周りに薄い膜ができてしまったみたいに、自分から少し遠く感じられる現実の風景。 祖父の人生がとても幸せなものだったと知っているから、感じるのは辛い悲しみというより、祖父が私たちに残してくれたものの大きさや、与えてく

    • 突然雨に降られた時は

      マレ地区の展覧会を見て外に出ると、突然の降りしきる雨。 しばらく軒下で庭園を眺めながら雨宿り。 湿度の高い空気、冷え込む気温。 身体が冷たくなってきても雨は止みそうにないので、小走りで駆け込んだ一番近くのカフェ。 カウンターに座り、国立中央文書館で見てきたばかりの展覧会を頭の中でもう一度再生する。 カフェラテで温まってくる身体。 展覧会は、私がとても尊敬している女性政治家シモーヌ・ヴェイユについて。 シモーヌ・ヴェイユは第二次世界大戦中にアウシュヴィッツへ送られ、収容所で

      • 雨の日の赤い口紅

        その日は細かい雨が降り続き、聞こえるのは雨音だけという静かな朝。 カフェの店内にはまだ他の客はいなく、ぼんやりと1人で眺めていた薄暗い街の景色。 その時ドアが開き入ってきたのは、まるで昔の女優さんのように頭をシルクのスカーフで巻き、赤い口紅を塗った女性。 ぼんやり薄暗い店内で、赤いマットな質感の口紅と鮮やかな色合いのスカーフだけが浮かび上がるように美しく、しばらく目が離せなくなってしまう。 スカーフを外し、雨を拭き、席にゆっくりと座るマダム、私の母親くらいの年齢だろうか。

        • エクレアと旅行と人生と

          先日L'Eclair de génieでレモンゆずエクレアを食べていた時のこと。 「パリへようこそ、マドモワゼル」とニコニコの笑顔で話しかけてくれた、隣の席にいた高齢の紳士的なムッシュー2人。 カメラを持っていた私が観光客に見えたのか「パリは楽しい? 何日くらい滞在しているんですか?」と聞かれたので 「はい、楽しんでいます。まだ、たったの19年ですが」と答えると大笑いの2人。 そんな会話から始まって、2人の話を聞いてみると、彼らはカナダのトロントから来た観光客で旅行が大好き

          パリを心から愛する人たちの共通点

          長いパリ生活の中で出会ってきた人たち(知り合いでも、道で10分話しただけの人でも)と世間話をしていると、話の節々で見えたりする、その人のパリへの想い。 例えば、パリが嫌いだと口では文句を言いながら、でも他の街では生きられないパリジャンとか。  モンマルトルで生まれ育ち、今もモンマルトルから出ることがほとんど無い高齢のマダムとか。 色々な人がいるけど、会話をしている中で、パリに対する気持ちに他の人とは違う、特別な厚みのある人、芯のある深い愛情が滲み出ている人に時々出会うこと

          パリを心から愛する人たちの共通点

          会うことのなかった祖母から受け継いだもの

          一昨年の秋に一時帰国した時、久しぶりに寝泊まりした実家の私の部屋。 私がパリに旅立った2005年2月のままのカレンダー、懐かしい勉強机、パステルカラーのカーテン。 あの頃とほぼ変わりなく保存された部屋に入ると、子供時代〜高校生までの様々な記憶がブワリと一気に押し寄せる。 スーツケースを開け、持ってきたワンピースをしまおうとクローゼットを開けると、そこには既にずらりと掛けられた複数の花柄のワンピース。 うちは母も妹も花柄のワンピースを着るタイプではないので、誰のものだろう?と

          会うことのなかった祖母から受け継いだもの

          日本人が道を聞かれやすい理由

          先日、日本から旅行で来ていた友人が「パリの街を歩いていると時々道を尋ねられるのだけど、なんで外国人の私に聞くんだろう?もっと道に詳しそうなフランス人に聞いた方がいいのに。」と不思議そうに言うので、それでどう対応したのか聞くと、地図で調べて教えてあげたそう。 「うん、きっとそれだと思うな」と言うと、首を傾げる友人。 これは私の個人的な意見だけど、フランス人に道を聞いて、その返事が正しい確率はたぶん60%くらい。 フランスでアジア人(特に日本人)は真面目なイメージがあるから、き

          日本人が道を聞かれやすい理由

          恋の季節の探しもの

          周りの空気にもピンクの色が溶け込みそうなほど、ピンクの花が咲き乱れる3月のパリ。 先日、道で40歳くらいのムッシューに声をかけられた時のこと。 「すみません、ちょっと探してるんですけど、、、」 どこかお店かメトロを探してるのかと思って「何をお探しですか?」と聞くと、 「探しているのは結婚相手です」 全く想像していなかった返事に不意を突かれ、思わず笑ってしまう。 なかなか面白い、確実に相手の足を止められる声の掛け方。 道の反対側を指差して「あ、あっちの方にいる気がします」と

          恋の季節の探しもの

          アブサンと溶けた恋

          隣の村の魔女が秘密の薬草を特別に調合したような味のする、クセの強いお酒アブサン。 思わず顔をしかめてしまう薬みたいな味だけど、不思議と数年に1度、急に思い出して飲みたくなる「緑の妖精」とも呼ばれるこのお酒。 10年くらい前、当時の恋人と住んでいていたアパルトマン。  その頃よく来ていたアブサンが豊富に揃った隣のカフェ。 私の中であの頃の思い出と深く結びついている薄緑のお酒。 あの頃。 骨まで溶けそうな恋をしていた頃。 去年、オルセー美術館で開催されていた「マネ/ドガ」展で

          アブサンと溶けた恋

          パリの空き巣手口

          数ヶ月前、19年のパリ生活で初めて遭った空き巣。 朝いつも通り家を出た時には想像もしなかった、四角くぽっかりと切り抜かれたドア。 見違えた姿のドアを見た時は、あまりのショックに息を吐くのも忘れて、数秒間固まっていたと思う。 空き巣に遭い、荒らされた部屋を見て最初に感じたのは恐怖の混ざった怒り。  夜中に警察に来てもらい現場検証が終わるまでの数時間、部屋に入れないまま被害状況を予測するだけの不安すぎる状況。 今まで空き巣に入られた人の話を聞いても、大変だな、かわいそう、くら

          パリの空き巣手口

          香水に秘められた記憶

          ここ10年ほどずっと、夜眠る時につけている「セロファンの夜」という名前のついたセルジュ・ルタンスの香水。 繊細で透明感のある金木犀が香る「セロファンの夜」をベッドに入る時につけるようになったのは、この香水に添えられた物語を知ってから。 【セルジュ・ルタンスは、暑いマラケシュの街中から自宅に戻り庭で休んでいた。
いつの間にか空気が透明になり、
虫たちの話し声が聞こえ出し、
空には星の姿が映り始め、夜の帳が下りる。 “なんという素敵な時間なのだろう”
“この空気や気配、すべての

          香水に秘められた記憶

          東京、逆カルチャーショック

          今まで数回しか訪れたことがなく、頭の中でふんわりと描いていた街、東京。 自分の目でちゃんと見てみたくて、1人で街を探検しに降り立った前回の一時帰国。 たぶんアニメやドラマを見て憧れ続けてた東京に旅行に行く外国人の感覚に似ていたと思う。 東京という大都市は全てが目新しく、でも同時にやっぱり懐かしく感じた母国の不思議な感覚。 数年ぶりに帰った日本では、いろいろな驚きや逆カルチャーショックの連続。 例えば。 泊まったホテルの近くの、名前は忘れてしまったけど、大きめの駅にはエスカ

          東京、逆カルチャーショック

          外国人として生きること

          パリで1番美味しいバゲットを決める、毎年恒例のコンテスト「La meilleure baguette de Paris」。 長さや重さ、塩分量など細かい規定をクリアした100本以上のバゲットがパリ中のパン屋さんから集まるこのコンテスト。 審査内容は味、香り、形、焼き加減、見ためなど細かく、優勝者に贈られるのは賞金と大統領官邸エリゼ宮の公式パン職人になり、パンを1年間納品するという栄誉。 パリの人はもちろん、世界中が注目するこのコンテストで優勝や入賞をすると翌日から店前にでき

          外国人として生きること

          「苦虫を噛み潰したような顔」をフランス語で

          長い間フランス語の勉強をしていても、時々どうしても言葉にできず悩む時があって、例えば最近、フランス人の友人との会話中につまずいたのは「苦虫を噛み潰したような顔」。 普段、日本語からフランス語に訳しながら話すことは無いのだけど、この表現は言い得て妙というか、言葉通り、私が伝えたい感情を完璧に表していて、それを他の言い方では(日本語であっても)とても伝えられないと思い、数秒のあいだ悩んで私が頼ることにしたのは、友人の想像力。 「はい、目をゆっくり閉じて想像してみて。 口の隙間

          「苦虫を噛み潰したような顔」をフランス語で

          自信がなさそうに聞こえる言葉

          私がパリのファッションデザインの学校に通っていた頃、1番好きで得意だったのはテキスタイルの授業。 布のモチーフをデザインしたり、色の組み合わせを考えたりするのが大好きで、他のどの授業よりも熱心に取り組み、課題も最大限に頑張って、大変なことも多かったけれど私にとって1番の楽しみだった時間。 そのテキスタイルの授業を2年間担当してくれたタニア先生。 高い身長、ふくよかな体型、カールの強い赤毛に明るい茶色の目、そばかすの散らばった頬、低めの声、歯に衣着せぬ物言い。 当時たぶん今の

          自信がなさそうに聞こえる言葉

          パリのバリスタはロマンチスト

          柔らかく透き通るような光が、ふんわりと差し込むカフェのカウンター。 パレロワイヤルの庭園を行き交う人々を眺めながら、ゆっくり味わうコーヒー。 軽やかな笑顔で入ってきたムッシューがカウンターでエスプレッソを注文すると、小さな店内に広がるコーヒーの香り。 店員さんとの会話から、ムッシューが常連のお客さんだと分かる。 (オープンしてまだ間もないカフェなのに!) 「自分が昔バリスタの研修を受けていた頃にさ、、、」とお客さんムッシューが語り始め、そこからコーヒーを入れる時の温度や秒

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