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ファイナンシャル・セラピーの見立て 後編
前回は、ファイナンスの視点からの見立てについて書きました。
今回は、臨床心理士資格と公認心理師資格を持つファイナンシャル・セラピストとして、サイコロジーの視点からの見立てについて書いていきます。
見立てとは
おさらいになりますが、見立てとは、クライエントの人生を支援するために、状況を聴き、お金や感情や行動などの面から多角的に仮説を立てることです。アセスメントや査定とも呼びます。
ファイナンシャル・セラピーにおける見立ての重要性については、こちらの記事で説明しています。
では、さっそく、心の動きから見立てるためのツールを見ていきましょう。
ツール4 マネースクリプト
マネースクリプトは、クライエントの行動パターンを理解する手がかりです。
マネースクリプトとは…
私たちがお金に対して持っている考え方、信念、価値観のようなものです。お金に対するマインドセットと言ってもよいでしょう。たとえば、「お金は悪だ」や「お金さえあれば幸せになれる」など。これらの固定観念は、まるで、お金に関する脚本(script)のように、私たちの行動を無意識に動かしています。
たとえば、貯蓄できないAさんの例を見てみましょう。一目惚れした洋服や、季節限定のコスメや、SNSで話題の美容グッズをついつい買ってしまう。でも、その後には必ず後悔が待っていて、口座残高や、買ったものの山を眺めては、自分を責めてしまいます。
そんなAさんのマネースクリプトを確認してみると、心の奥底で「お金は悪だ」「お金を手元に残しても良いことなんてない」と考えていることが分かりました。この信念が、Aさんを突き動かしていたのです。
「お金は悪だ」という考えを持っているAさんの場合、ただ支出を減らすだけの計画を立てても、きっと途中で挫折してしまうでしょう。
なぜなら、マネースクリプトは、幼い頃に家族や周囲の人から学んだことや、その後のその人自身の人生経験から形成されたものであり、Aさんのお金に対する姿勢やマインドセットそのものは変化していないからです。
興味があれば、あなたのマネースクリプトを確認してみるのもおすすめです(外部サイト)。
ツール5 お金の行動パターン
クロンツら(2012)は、8つの不適応なお金の行動パターンが存在することを検証しました。ここでは、クロンツ式お金の行動パターンリスト(KMBI: Klonts Money Behavior Inventory)と呼ばれる尺度の一部を紹介します。
- 衝動買い
買い物への抑えきれない衝動を感じる
目の前の問題を忘れるために買い物をする
買い物のあとに罪悪感を覚える
買ってから後悔して返品することがよくある
パートナーや家族には買い物のことを隠している など…
- 病的ギャンブル
ギャンブルをコントロールするのが難しい
ストレス解消のためにギャンブルをする
興奮を維持するためについ課金してしまう
ギャンブルのために借金したことがある
身近な人にはギャンブルのことを隠している など…
- 強迫性ため込み
価値がないとわかっていても物を捨てるのが難しい
使っていない物で部屋がごちゃごちゃしている
断捨離は自分の一部を失うような気がする
物に感情的に執着している
物は私に安心感を与えてくれる など…
- 仕事中毒(ワーカホリック)
しばしば仕事をしたい衝動に駆られる
働き方についてパートナーや家族から不満を言われる
仕事が休みの日には罪悪感が湧いてくる
常に忙しくしていなければならないと思う
残業を頼まれると断れない など…
- 財務的依存
自分がもらうお金には条件が付いているような気がする
お金を受け取る時に怒りを感じる
収入の大半が不労所得(年金、保険金、配当金など)である
不労所得があることで情熱や意欲が失せている など…
- 財務的支援
金銭的に頼りにされると断れない
パートナーや家族や友人から金銭的に利用されている
返済に関する約束なしでお金を貸してしまう
お金をあげた後に憤りや怒りを感じる など…
- 財務的否定
お金のことは考えないようにしている
自分の財務状況を忘れるようにしている
銀行の明細を見ることを避けている など…
- 財務的密着
経済的ストレスについて子ども(未成年)に聞かせている
経済的ストレスについて子ども(未成年)に話すと気分が楽になる
お金について他人と話する時には子ども(未成年)が仲介役になっている など…
あなたの行動パターンに近いものはどれでしょうか?
あなた自身のことよりも、パートナー、親、祖父母、友人、同僚などの顔を思い出す人もいるかもしれません。
8つの行動パターンのいくつかを併せ持っている場合もあります。
ツール6 経済不安尺度
経済不安とは、個人の経済状況が原因で、金銭的な不安や生活苦を抱える状態のことです。深刻な経済不安は、悪心、動悸、頭痛などの心身症を引き起こす可能性があります。また、自殺の原因の上位に挙げられることもあります。
※ 身体症状や希死念慮がある場合、ファイナンシャル・セラピーと並行して、医療機関の受診が必要です。
経済不安の大きさは、金融リテラシーや金銭管理能力の低さと関連している可能性があります。リテラシーや管理能力がないために、適切な判断ができず / 問題の先送りを続けて、結果として財務状況が悪化し、不安を感じて怯えているというケースも少なくありません。
お金に関する心配やストレスが、日常生活にどの程度影響を与えているのかは、アーチュレッタら(2013)の開発した経済不安尺度(FAS: Financial Anxiety Scale)で定量的に評価することができます。
まとめ
今回は、ファイナンシャル・セラピーにおける見立ての重要性と、サイコロジーの視点からクライエントの状況を理解するためのツールを紹介しました。
これらのツールを活用することで、クライエントの心の動きを理解し、より適切な支援を提供することができます。ファイナンシャル・セラピーでは、お金の問題だけでなく、心の状態にも目を向けることが重要です。
お金のことだけでも、心のことだけでもない。ファイナンスとサイコロジーの両面から見立てることで、包括的なサポートを提供できるのが、従来とは一味違うファイナンシャル・セラピーの強みです。
ぜひご一緒に取り組みましょう。
今日も読んでくれてありがとう。
それではまた。
岸原麻衣