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第1回「不穏婦人会」を読む
第1回「不穏婦人会」を拝読しました。
まず言わせてください、こういう感じの雰囲気めっちゃ好きです……(告白)
読む前はタイトルの意味を掴みかねていたのですが、読んでみてそういうことか!とラブが増しました。
(自分の話で恐縮ですが、作品をつくると、なんとなく不穏さが出ている、とご感想をいただくことが多い(普通に嬉しい)のもあって、勝手にシンパシーを感じてしまいました)
もちろん不穏さを差し引いても作品として魅力的な歌ばかりなのですが、特に好きだったものをおひとり1首ずつ引かせていただきます。
※以下50音順、敬称略
仲良しのトライアングル二等辺三角形がつくる鋭角
結句の「鋭角」という終わり方に、まさに言葉どおりの鋭さを感じる。トライアングルだから三人組だろうか。三人って難しいですよね。それぞれが完全な等しさで仲が良いっていうのはなかなかないんじゃないだろうか。遊園地のアトラクションに乗るときの二人席と一人席とか、お店のテーブルにどう分かれて座るかとか、ちょっとしたところで割れ目が見えるような。
二等辺三角形の鋭角はふたつだから、残る鈍角=主体から見た歌だとしたらちょっと切ないなと思った。同時に、その気持ちもわかるな、と思う。
ほんとうによごれをおとすということがどういうことかわかりそうです
こ、こわい~~~(褒めております)
すべてひらがな、かつ敬体で終わる表現が印象的で、ぽつっと主体が自分の中だけの答えにたどりついたような。まさに不穏な空気を感じる。「ほんとうによごれをおとす」の最終解はなんなのだろう。想像するならば、自分もしくはだれか、なにかをだめにしてしまう、死のイメージにまで飛んでしまいそう。
第三部のマンボウの歌もとても惹かれました。もしかしてそこが答えだったりするんだろうか。
カラメルはコールタールの海めいてそんなに誰から愛されたいの
プリンの底にたまったカラメルだろうか。とろりとほろ苦くておいしいはずなのに、この人にとっては「コールタールの海」に見えてしまう。どろどろで、沈んだらもう戻ってこれなさそうな、明るさとは反対側にある液体。下の句の言い捨てるような感じ、カラメルに対して言っているようにもみえるけれど、自分に対してかもしれないなと思った。一つ前の歌で「同調」について詠まれているから、周りに合わせてしまう自分をちょっと客観視して、冷めた口調で問いかける姿が見えてくる。
うっとりと頬のうちがわ噛む四月こんな感じで消えたいね、ドリー
毛糸さん……毛糸さんの歌、どれも特に好きで、第三部のコバルトの歌とも迷いつつ、こちらに。
「頬のうちがわ」って口内炎?と思いつつ、既にできた炎症ではなくて、癖づいたかたちで噛んでいるのかもしれないと思った。その動作に恍惚を感じているのはなぜだろう。四月のなまあたたかい風も感じられるよう。
「ドリー」の解釈にちょっと迷って、わたしの脆弱な知識では『ファインディング・ニモ』シリーズのおてんばドリーしか出てこなかったのだけど、たぶん違う……違いますよね……ただ固有名詞の使い方がすごく良いな、と感じる。一緒に消えたいね、っていうことなのかな。
気に入りの窒息のひとつカンパーニュのみこんでいくとき甘いのど
「気に入りの窒息」にやられてしまう。「お気に入りの」ではなくて「気に入りの」、字数よりも前にこの、余計な接頭辞は排除する婦人としての矜持みたいなものが表れている。カンパーニュはパンのなかでも特に噛みごたえのあるハードな食感で、かつバゲットよりももちもち感があるので、喉にちょっと詰まっていきそうな感じがすごくわかる。
「甘いのど」にもなんともいえない愉悦、快楽を見出せる。瞬間的な「窒息」を気に入っている主体、ふ、不穏です……!
第一部の Curiosity の歌の発想にもとても惹かれました。
本当へ帰りたいのはあなたでしょう?もうあの樹々は情景の孤島
上の句も、下の句もただならぬ感じでとても好き。「本当に」ではなくて「本当へ」。いわゆるいまは目を背けている、真実というか現実へ、ということだろうか。「あなた」と見る車窓を流れていく樹々は、日常的に近いものではなくて「情景の孤島」。遠くからながめる景色のなかで、高く空をつきあげている針葉樹林とか、住宅街のなかに立っている広葉樹の並木のイメージを抱いた。「本当へ」帰りたくても帰れないふたりだろうか。これからもずっと、車窓をとおして映る樹々は孤島なのだろうか。さみしさと不穏さも同時に襲ってくる歌。
第一部から第三部までの構成もとても面白く、デザインも素敵で読みごたえ満点のネプリでした。なんというか、第一回とは思えない仕上がり感?統一感?のようなものを感じて、すごい……すごい……と感動してしまった。
不穏同好会(いま立ち上げた)として、第二回以降も楽しみです…✿