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SSまとめ

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過去に描いた作品をまとめました。 すぐに読める作品ばかりです。 もし少しお時間があって、少しでも興味を持ってくださったらタップして見てください。
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#ショートショートnote杯

【SS】あたりまえの音

【SS】あたりまえの音

 何気ないことだった。

 いつも物静かな彼に対して「もっと喋ってよ。私ばっか喋ってるじゃん」といってしまった。

 彼の好きなところがどこかと聞かれたら、「クールなところ」と答えたに違いないのに。自分の天邪鬼さに嫌気が差す。けど、大事なことを喋ってくれないのは確かにそうなのだ。そして、文句をいうのも大体私。別に、浮気をされているわけでも、無下にされているわけでもない。私の文句に対して言い返してこ

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【SS】酔っ払いピアノ

【SS】酔っ払いピアノ

都会の寂れたバーには開店当時からピアノが置いてあった。
昔は、夢を追うピアニストたちがたくさん演奏をしていたが、今では誰も弾くことがなくなり、調律もされていない。
そんな中、バーの店主が倒れ、店を閉めることになった。調律のされていない古いピアノなんて、誰も引き取ろうとは思わない。このまま処分されてしまうのだろう。みんながそう思った。
店が取り壊される前夜、誰もいない店に一人の男がゆらゆらと入ってき

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【SS】朝のロープ

【SS】朝のロープ

 早朝、布団の中にいるのに手汗が止まらない。怒号が頭にこびりついて、剥がれない。
出勤まであと2時間、予定よりも早く起きてしまう。気持ち悪くて布団から出た。
 起き上がった瞬間、体の周りがぎゅっと締め付けられる。
 朝食をとりながら、ニュースをみる。自分が使っていない電車の人身事故についてやっていた。それを見て、迷惑さよりも羨望の気持ちが強くなる。
 腕に何かが食い込む、手からまた汗が出てきた。今

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【SS】火星のおじいちゃん

【SS】火星のおじいちゃん

おじいちゃんは地球人だ。

地球が滅んで、人類が火星に移り住んだ時、おじいちゃんは今の僕と同じ小学生だった。

今のおじいちゃんはもうボケてしまって、地球のことを聞いても何も話してくれない。

けど、まだ僕が4歳だった頃、おじいちゃんが言っていた。

「俺は、ラーメンが好きだったよ」

教科書で見たことがある。小麦粉を使った細長い「麺」と呼ばれるものが、濃い色の汁に浸かっているものだ。

火星には

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【SS】違法の冷蔵庫

【SS】違法の冷蔵庫

誰しも、心に違法の冷蔵庫があるんだ。

自分の法律を破る時に使うものが入っているの。

秩序を保つためにやってること、みんな実はあるでしょ。

無闇に怒らないとか、約束は守るとか、わがままは言わないとか。

理性的に生きるとか、冷静にいるとか。

でも、それが苦しくなる時がある。

そんな時、人は違法の冷蔵庫を開けて中身を使うの。

それぞれが影響を与えないように、プラスチックのビニールで密閉され

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【SS】株式会社リストラ

【SS】株式会社リストラ

「なんでこんな会社名にしたんですか」

丸い耳をしゅんとさせながら虎島が不満を呟いた。

「そりゃあ、リスとトラが開いた会社だしな!」

利洲山が前歯を出して笑った。ふわふわなしっぽが椅子から溢れている。

会社を開いて三ヶ月、利益はほとんどなし。仕事仲間も見つからず、社員はこの2匹のみの小さな会社。つけた本人は大満足なようだが、相方は不服なのか尻尾をいじいじ。

「リスを名前の最初に入れたかった

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