【SS】酔っ払いピアノ
都会の寂れたバーには開店当時からピアノが置いてあった。
昔は、夢を追うピアニストたちがたくさん演奏をしていたが、今では誰も弾くことがなくなり、調律もされていない。
そんな中、バーの店主が倒れ、店を閉めることになった。調律のされていない古いピアノなんて、誰も引き取ろうとは思わない。このまま処分されてしまうのだろう。みんながそう思った。
店が取り壊される前夜、誰もいない店に一人の男がゆらゆらと入ってきた。男は酔っ払っているようで、千鳥足。でも、陽気に歌を歌っている。
ふと、ピアノに目を止めた男。椅子に座り、ピアノを弾き始めた。
まるで酔っ払いの歌のような音。男も船を漕ぐように演奏します。静かなバラードなのに、緊張感がない。最後まで弾き終わらないうちに、手は止まり、男はすっかり眠ってしまった。
朝日が登り、みすぼらしい男は大工たちに店から追い出された。
地面に横たわった男は夢現の中、呟く。
「相棒、俺は演奏家にはなれなかったよ」