【SS】朝のロープ
早朝、布団の中にいるのに手汗が止まらない。怒号が頭にこびりついて、剥がれない。
出勤まであと2時間、予定よりも早く起きてしまう。気持ち悪くて布団から出た。
起き上がった瞬間、体の周りがぎゅっと締め付けられる。
朝食をとりながら、ニュースをみる。自分が使っていない電車の人身事故についてやっていた。それを見て、迷惑さよりも羨望の気持ちが強くなる。
腕に何かが食い込む、手からまた汗が出てきた。今日こそは、ハンカチはタオル製のものを持っていこう。
出社の準備を進めるほどに、体が窮屈になっていく。服を着替え、髪を整える度に、ぎゅ、ぎゅ、と縛られている音が聞こえる。
人は朝から逃げられない。人身事故を起こす人というのは、大きなハサミを隠し持っている人だ。もう無理だと思った瞬間に縛っているそれを切る。そんな姿に憧れずにはいられない。
家を出る前に、靴紐を縛る。ああ、こうして今日も現実に引きずり込まれていくのだ。