【SS】火星のおじいちゃん
おじいちゃんは地球人だ。
地球が滅んで、人類が火星に移り住んだ時、おじいちゃんは今の僕と同じ小学生だった。
今のおじいちゃんはもうボケてしまって、地球のことを聞いても何も話してくれない。
けど、まだ僕が4歳だった頃、おじいちゃんが言っていた。
「俺は、ラーメンが好きだったよ」
教科書で見たことがある。小麦粉を使った細長い「麺」と呼ばれるものが、濃い色の汁に浸かっているものだ。
火星には、ラーメンがない。
というより、地球で食べられてきたものは火星では食べられないらしい。どうしてなのかは、まだ僕にはわからない。
ラーメンが食べられないと知ったおじいちゃんは、その時どう思ったんだろう。
もしおじいちゃんが子どもじゃなかったら、大好物が食べられなくなるのと、生き続けるの、どっちを選んだんだろう。
地球にはもう、戻れないらしい。
だから、僕がラーメンを食べることはきっとない。
けど、なぜかその響きが、僕には懐かしく感じる時があるんだ。