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言葉を理解するということ(働きたくないイタチと言葉がわかるロボット/川添愛)

「こちらの言うことが何でもわかって、何でもできるロボットを作って、そいつらに何でもやらせればいい」という怠慢なイタチ達が「すごいロボット計画」を始める物語を挟みながら、言葉がわかるとはどういうことか?という問いの答えを、言語学・自然言語処理の研究者が検証していく作品。

言葉を理解するために必要な条件には以下の7つがある。

①音声や文字の列を単語の列に置き換えられること
②文の内容の真偽が問えること
③言葉と外の世界を結び付けられること
④文と文の意味の違いが分かること
⑤言葉を使った推論ができること
⑥単語の意味についての知識を持っていること
⑦相手の意図が推測できること

ディープラーニングという手法が確立された今、どれもそれほど難しくなさそうに見えるが、実際はそうではない。
理由は、 機械のための例題や知識源となる大量の信頼できるデータを集めることや、見える形で表しにくい情報を機械に与えることが簡単ではないからだ。
あらゆるリンゴの写真を1000枚読み込ませ、リンゴのイメージとリンゴという言葉を結びつけることはできても、例えば「愛」「無」といった概念的なもの、「5」のような数字を表現したイメージは、愛の存在に付随しがちなイメージに過ぎなかったり、「5つの点」のように「5」という数字そのものとは無関係の存在(点)を排除できなかったりする。

また、私たちは他人の言葉を聞いて何らかの反応を起こすまでの間に、一般常識や自分の記憶、今いる場面や状況、そこまでの会話や出来事の流れ、場の雰囲気、そこにいる人々の関係性、文化や慣習など、さまざまな情報を使っていて、その多くは目に見える形で表すことができない。

以上の理由から、「大量のデータからの機械学習」という現在主流の方法の延長線上で「言葉を理解する機械」を実現することは難しく、用途や利用場面を絞り込んだ機械を作る方が現実的と考えられている。

では逆に、なぜ人間はこれほど簡単に言葉を使えるのだろうか?
答えはシンプルで、人には言語習得の生まれ持った能力が備わっているからだ。
加えて、機械が苦手とする「本当の意図の理解」についても、人間には他人の知識や思考や感情の状態を推測する能力が備わっていることが大きく関係する。「カーテンを閉められますか?」という質問を「カーテンを閉めてください」というお願いと解釈するなど、人が当たり前にできることを機械で再現することは、今のところまだ難しい。

最後に、物語の主人公をイタチにしたのは、この分野の研究がイタチごっこだから、だそうだ。。

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