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自己愛の描写(ぼくにはこれしかなかった。/早坂大輔)

高卒で就職、営業マンとして朝から夜中まで死に物狂いで働き続け、会社でそれなりの地位を得たものの鬱になりかけ、40歳を過ぎて脱サラ。本当にやりたいことは何かと自問自答した結果、昔から好きだった本を広めることを仕事にしようと、盛岡で「BOOK NERD」という書店を立ち上げた著者の半自伝的な作品。

あ、村上春樹好きなんすね…と思わざるを得ない文体と、一人称「ぼく」、エッセイなのに「きみたちは〜だろうか?」という「きみたち」への問いかけ連発、終始漂う自己陶酔感にちょっと辟易してしまった。

あと、外野がとやかく言う話ではないが、著者のプライベートの話。
著者にはサラリーマン時代から連れ添い、会社を辞めて書店をやると言い出しても、彼を信じて13年もついてきてくれた妻がいた。しかし著者は、書店の立ち上げを通じて刺激的な人々と出会うようになり、妻をつまらない人間だと感じ始める。そして、アメリカへ本の買い付けに行く前夜、離婚を切り出す。数ヶ月後に離婚が成立し、妻が出ていった後、ものすごく後悔する。(馬鹿なの?)
そして数年後、新しい彼女と「子供をもつつもりはない。育てる自信がない」と話し合いをしていたにも関わらず、彼女から泣きながら「妊娠してしまった」と報告。そして再婚。
この時の著者の年齢は推定44歳だが、恥ずかしげもなく自己陶酔感に満ちた描写で綴られていて、引いてしまった。ハタチならまだ分かるのだが。

著者は、年に一度アメリカを訪れては書店を回り、自分の手で本や雑貨の買い付けを行っている。オンラインショップもやっておりそれなりに売れて充実した日々を送っているが、「ぼくの給料は時給に換算したらその辺のバイトと変わらない」という。それでも、大事なのはお金じゃない。つまらない仕事はすぐに辞めて、人生を賭けられるものを探せと繰り返す。

楽しくない仕事を嫌々やっている人にとっては勇気づけられる内容だと思うが、それが趣旨ならこの自己愛の描写は不要ではないか。
私には分からなかった。

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