都会は待ってくれない(本屋で待つ/佐藤友則)
書店の閉店が止まらない昨今、著者が経営する広島の田舎の書店・ウィー東城店が、多角的な事業展開によって生き残ってきたヒストリー。
…と書くとビジネス書のようだが、文体はエッセイに近く、描かれているのはヒューマンドラマが中心なのでサクサク読めた。
はじめの事業は本とCDの販売、そして写真の現像。客から「どうしても金曜までに現像してほしい」と頼まれれば、店長(著者)は車を何時間も走らせて写真屋に受け取りに行ったり、在庫のない本がどうしてもほしいと言われれば、別の書店で探して定価で買い、それを定価で客に売る。(これは書店
あるあるらしい…)
もちろん利益はゼロどころか、人件費でマイナスとなる。
なぜそこまでするのかというと、利益よりもお客さんに喜んでほしいという著者の性格のせいなのだが、そうした努力の積み重ねで町の信頼を勝ち取り、「あそこに相談すればなんとかなる」という何でも屋のようなポジションを築きあげた。
そうしてウィー東城店は、年賀状・宛名の印刷、美容院、コインランドリー、パン屋の併設と超多角経営になり、結果、成功している。どれも単なる利益の追求ではなく、お客さんの要望を中心に据えた意思決定のもとだ。
書店はあらゆるジャンルの本を扱うし、本は信頼性が高い。だから、そもそも「何でも相談できる」という土壌があり、全く異なるジャンルのものを併設しても違和感がない。それが成功の要因だと著者は言う。
スタッフに対する信頼もすごく、親に頼まれて不登校の高校生をバイトとして雇い、彼らはバイトを通じて少しずつ成長していく。中にはそのまま社員
となり、店を支えている者もいる。
著者の意思決定は全て、信念に基づいている。
ほとんどの問題がネットで解決し、土地代の高い都会で、このやり方はおそらく通用しないだろう。
タイトルに込められた「待ち」の姿勢では、都会の企業は簡単につぶされてしまう。それは企業の在り方に加え、顧客自体が、スピードを求めることに慣れきっているせいもあると思う。
常に何かに追われ、映画を倍速で観て、時短こそ正義とする人々の目に、田舎の書店はどう映るのか。
考えさせられる一冊だった。