SFミステリと言う勿れ(ベーシック・インカム/井上真偽)
SFを軸に置いたミステリ短編集。
AI、VR、人間強化、遺伝子操作…と使われている技術が明らかなのでトリック自体に驚きはないものの、シンギュラリティ的に描かれがちなテクノロジーを”美しい謎”として仕上げる、読後感の良い物語ばかりだった。
中でも印象的だったのは、美しきAI保育士・エレナが、不倫を続ける児童の母に対峙する作品『言の葉の子ら』。人間に寄り添うAI・エレナの台詞が、詩的で美しい。
未来がこうだったらいいのにね、と願うばかりの物語の数々。
しかし最後の『ベーシック・インカム』で、おそらくは著者自身と重ね合わせたのであろう主人公の言葉によって、その意図が明かされる。
この構成も素晴らしかった。
この小説にはきっと、King Gnuの『カメレオン』が似合う。