ポップな後味の悪さ(とんこつQ&A/今村夏子)
たしかアメトークの読書芸人回で紹介されていた、4つの短編集。
タイトルとカラフルな装丁、そして全ての設定が「ほっこり系のいい話」を予感させるにも関わらず、最後の最後で何とも言えない後味の悪さを残す、不思議な小説だった。
表題の「とんこつQ&A」は、中華料理屋「とんこつ」でアルバイトを始める女性の話。精神的問題を抱え、スムーズな会話ができない彼女は、お客さんとの必要なやり取りを全てメモに書いてオリジナルのQ&A集を作る。Q&Aを見ながら接客をし、仕事がうまく回り出したある日、メモがなくても会話ができるようになっていることに気づく彼女。
「成長物語ね、ふむふむ」と思いながら読み進めると、太った女性のアルバイトが新しく入ったことで状況が一変。その女性が亡くなった「おかみさん」に似ていると持て囃されるようになり、存在意義を失った主人公はバイトを辞めることを考え始めるが、最後は「おかみさん」として疑似家族を演じる新入りバイトらに引き止められ、それから何十年もとんこつで働いたとさ…
という、ほっこり成長物語かと思いきや、偽家族モノホラー?という、不思議な感情にさせられる話だった。
ほか、中高生の姉弟と学校の嫌われ者「与田君」を描いた「嘘の道」、子供のいない夫婦の妻が、道で見かけた虐待されている(かもしれない)小学生・タムを養子にしようと考える「良夫婦」、全く料理をしない工場アルバイトの女性が、悪い噂のある同僚女性に安いスーパーを教えると、スーパーに寄るついでに家に上がり料理を作られるようになる「冷たい大根の煮物」、この3編も全て、ほっこり系を匂わせておきながら微妙な後味の悪さを残して終わる。
後味が悪いと言っても誰かが死んだとかいう悲劇ではなく、「後で食べようと残してたら腐ってたわ」みたいな気持ちの悪さで、どこかポップさすら漂うのが不思議だ。文体もあっさりしていて、読みやすい。
恥ずかしながら知らなかったけれど、著者は芥川賞受賞作家らしい。
他の作品も読んでみたくなった。