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読書感想『絡新婦の理』※ネタバレ注意

今週読んだ本は、著作京極夏彦の百鬼夜行シリーズ第五巻『絡新婦の理』でした!
このシリーズの中で最も面白かった!!と個人的には大満足の一冊になりました。
京極堂&榎木津&木場修vs絡新婦のせめぎあいが濃密に描かれた1,400ページで読んでいてずっと先が読みたい気持ちに駆られる作品でした。


この作品に登場するテーマは主に女性差別などの性問題と、自分の行動というものがどれほど自由なのかという話があったと思っていて、個人的にはこのテーマも刺さりました。
本書の刊行が1996年ということでしたが、なんだか女性関連については現代を見ているような、女権拡張とそれにのっかる男性蔑視的なフェミニズム、そして同時に進行するパパ活という売春、この30年でとくに変わっていないのかと不思議な気持ちになります。
増岡さんも言ってましたが、フェミニズムは攻撃的な人を先頭に立たせなければもう少し発展があったのではないかと現代を見ていても思ってしまいます。

そしてこちらは作品のトリックにもなっているテーマ、自分の行動とは本当に自由意志なのかというお話。
今までの京極は姑獲鳥や魍魎は視覚や体験が混乱し陥る狂乱で、狂骨が朧げな過去と夢によって陥る狂乱、鉄鼠が場所によって陥る狂乱だと考えて読んでいたのですが、今回はこれらとはかなり一線を画していたと思います。
各々が自分で決めて動いているようで、その実は明瞭に覚えているわけではない過去や自分が勝手に想像で補っている部分、そして人間関係などに絡まれており思った以上に自由に動いていない、そしてそれらを巧妙に仕掛け人々を壊していくという話でした。
京極堂や榎木津ですらただの駒として組み込まれ、憑き物を落としてしまうことでその人の生きていくために固執していた砂の柱が崩れ落ち、人間として壊れてしまう。榎木津の目すらも躱し舞台に組み込んでしまうのは恐ろしい。

ただ、正直なところ自分は犯人がかなり序盤で分かっていたんです。
『あなたが蜘蛛だったんですね。』で始まる一番最初が女との会話シーンであったという時点で、最も弱い女が犯人何だろうと確信していました。そう思って読んでいたらすぐに出てきたんです。あの強い女性だらけの織作家で最も弱い女性が。こればっかりは西尾維新に感謝なのか、恨みなのかは分かりませんが影響を受けてしまっていますね。

自分は結構いろんなことに手を出して、色々な親戚や大人、作品に影響を受けて育ってきたので自分に絡まっている糸が大量にあるんです。だからそのうち数本が切られたとしても世界に絶望したり、人間として壊れたりしないのですが、人によってはそれが少なかったり、一本が太かったりして致命傷になってしまうんでしょうね。
人間というものが立っている世界の不安定さ不自由さを痛感する一冊でした。

ここからは読みながら節々で書いていた感想を書いていきたいと思います。
ほとんど焼き直しみたいなものなのでここらでいったん終わりにしましょう。
それでは読んでくださった方ありがとうございました。
著者Twitter:まがしき @esportsmagasiki


P449まで

今のところ過去一で面白いかもしれない。誰かの張った蜘蛛の巣の上にいるのじゃないかと気づいてしまう部分が特に凄い。
京極の作品はいつも中心点に向かうように物事が集中していくように解決するのですが、その感覚を味わえるのはたいてい終盤です。なのに今回はこんなに早くに集結していくとは。
読んでいて見えてる情報と、何を読まされているのか分からない幕間のメリハリがはっきりとしていてとても楽しみに読んでいる。

P826まで

今のところ面白いという感想は変わらないどころかより強度を高めている。
京極堂と榎木津が言ったように杉浦を捕まえるところまでが一段落として仕組まれており、読む側としても何かその先に繋がりそうな糸は見えているのに、繋がらない。杉浦隆夫までなら全てが繋がっているという奇妙で不思議な体験をしている。
それにしても榎木津がここまで動く回は珍しい。そしてやはり面白い。
木場修も今のところ八面六臂の活躍で一つ悲しい偶然があったが読んでいて楽しい。
序盤で伊佐間さんと話していたお金の欲しいおじいちゃんんのが美由紀のためだったのかとほっこり。物凄い名言を残してカッコよく去っていった。

―――しかしな、善く聞け。恐いのはお化けじゃねえ。悪漢でもねえ。———人の心でもねえど。———恐がンのはお前、自分だ。恐がっている者は、傍から見りゃ滑稽なだけだぞ。

p735

京極夏彦はキャラづくりが本当に上手い。
ここまでが前座だろうしこの先が楽しみで仕方ない。
蜘蛛は恐らく茜。最も弱いやつが最も恐ろしい。(この段階であてているのです!)

P1177まで

物語が最も展開したパートだった。
学校にて連続していた頸を捻じる殺人が解決し、解決すると同時に主犯格である碧が死んでしまった。
学校の黒弥撒を解体し、杉浦を解体し、そして碧を解体したこの章。
幼い子の世界を壊すことは大人の世界を壊すことの数倍リスキーであり、相手に衝撃と苦しみを与えるのだろうと思う。
その上自分の意志による行動と思っていたものが誰かの蒔いた種によるものであるという事実は一人の人間を壊してしまうのには十分すぎると思う。
ここからはクライマックスだろうし、とても楽しみ。

P1331まで

最も弱いものとして茜を予想していたわけだが、そういえばもう一人弱い人がいた……完全に意識の外というか把握していなかった。
血をつなぐ執念はいろいろな作品で語られることであれど、その大半が男系をつなぐものだったと思う。
まさか女系を繋ぐための執念なんてもの自体考えもしなかった。いやあお婆ちゃん怖い怖い。
自分が新ている世界が壊れるのってやはり怖いんだろうなと、その上自分自身というものすら聞いていたものと違ったらそれはいいようのない恐怖だろうなと思う。
自分や他人、世界を誤って認識し続ける恐ろしさとそれが解けたときの恐ろしさ、自分はどうなんだろうかと思ってしまう。
それではエンディングへ。

最後まで

予想は半分的中って感じなのだろうなぁ。京極堂が言ってたように始まりはお婆ちゃんで、茜もまた世界を誤って認識してしまった人の一人なのだろう。
いやー本当に面白かった。


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