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海洋酸性化の進行リスクとは?プラネタリーバウンダリーの視点から考える⑤〈サステナ学習帳#79〉

海洋酸性化は、二酸化炭素(CO₂)が大気から海に溶け込むことで進行する現象だ。CO₂が海水に溶け込むと、海水のpHが下がる。pHとは、液体がどれだけ酸性かアルカリ性かを示す指標で、0に近いほど酸性、14に近いほどアルカリ性である。海水のpHが低下すると、酸性に傾くことを意味し、海洋生物の殻や骨を形成しにくくなる。本日は、海洋酸性化がもたらすリスクとその進行について、プラネタリーバウンダリーの視点から確認したい。

【プラネタリーバウンダリーの一つとしての海洋酸性化】

プラネタリーバウンダリーは、地球環境の安定を保つための9つの限界を示す概念であり、海洋酸性化もその一つだ。特に、サンゴ礁や貝類、プランクトンなどの海洋生物は、酸性化によって殻や骨を形成しづらくなり、生存が難しくなる。これが生態系全体に波及し、食物連鎖の基盤が崩れる危険性がある。

【世界の海洋酸性化の現状】

産業革命以降、海水のpHは約0.1ポイント低下し、酸性度が30%以上上昇したことを意味する。北極海や南極海などの寒冷地域では酸性化が特に進行しており、太平洋のサンゴ礁地帯でも影響が深刻だ。2030年までに、世界中のサンゴ礁の多くが酸性化によって白化し、生存困難な状況に陥ると予測されている。

【海洋酸性化が生態系に与える影響】

酸性化は貝類やプランクトン、サンゴなどに大きな影響を与える。これらの生物は炭酸カルシウムを使って殻や骨を形成するが、酸性度が上昇するとその過程が阻害される。プランクトンの減少は、魚類や他の海洋生物にとっての餌が減少することを意味し、食物連鎖全体が不安定化する。また、酸性化によって酸素供給が低下する可能性も指摘されている。特に、食物連鎖の基盤であるプランクトンが減少することで、マグロやサケなどの大型魚類にも影響が及び、漁業にとって深刻な問題となる可能性がある。

【日本近海での具体例】

日本近海でも海洋酸性化が進行しており、1998年から2023年の間に表面海水のpHが10年あたり約0.021低下していることが確認されている。これにより、特に沖縄のサンゴ礁では白化が進み、貝類の成長不全も見られるなど、深刻な影響が出始めている。このまま進行が続けば、沿岸生態系だけでなく、漁業にも直接的な打撃が予想される。

【持続可能な対策と海洋の保全】

海洋酸性化を抑えるためには、CO₂排出の削減が不可欠だ。再生可能エネルギーの普及やカーボンキャプチャー技術の開発、森林保護が具体的な手段である。また、海洋保護区を設置することで、生態系の回復を促進し、持続可能な漁業の実現にもつながる。海洋のpHバランスを保つためのさらなる研究や政策も必要だ。

【まとめ】

海洋酸性化は、プラネタリーバウンダリーの中でも重要なリスク要因である。持続可能な対策を実施し、海洋環境を守ることは、地球全体のバランスを保つ上で必要不可欠だ。今後も、国際的な協力と効果的な管理が求められる。

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