"小さくて地味な最強の起業" えらいてんちょう「しょぼい起業で生きていく」
読書メモ#18です。今回は「早起きできないから」という理由で会社員を諦め、一人で様々なビジネスを展開しながら生きている「えらいてんちょう」氏の著書「しょぼい起業で生きていく」のメモです。
タイトル通り「会社員が嫌なら気楽に小さく起業して生きていこう」というゆるめな雰囲気のメッセージですが、その背後には徹底した合理主義に裏打ちされた理論があり、かつ具体的なため再現性が高く予想に反して非常に読み応えのある1冊でした。
個人的な話になりますが、最近自分の人生を考えていく中でどこかのタイミングで起業したいと考えるようになりました。
とはいえ「これがやりたい!」とか「1発ビジネスを当てて儲けたい!」と言った立派なビジョンがあるわけではなく、自分はどちらかというと一人で熱中して取り組めるような仕事が好きなタイプな上、一人でいることが全く苦にならない性格のため、自分が最もストレスなく働く環境を手に入れるには独立起業しかないのでは、と考えるようになりました。
そんな自分のような大きなビジョンのない意識低め独立志望者の方、もしくは本業以外でもゆるゆると収入を得たいと思っている方には間違いなく突き刺さる内容だと思います。
事業計画も大金も不要、"生活を資本化"せよ
本書で紹介されるしょぼい起業では低コスト、低リスク、低負担な起業で自分が生活できる範囲の収入を得ることを勧めています。その考え方の中で非常に重要となってくるのが「生活の資本化」です。
起業するというと、これまでの生活を一変させて事業に取り組まなければいけない!という考えになりがちですが、しょぼい起業においては今ある生活の基盤の上で資本化できるものをお金に変えていく、という考え方が語られています。
郊外から毎日都心のオフィスへ通っている人にとって、自宅からオフィスまでの移動は単なる「通勤」以外のなにものでもありませんが、例えば「自宅の畑で取れて余った野菜を運んで都心で売る」という副業を始めた場合、それまで単なる通勤でしかなかった生活の行動が「輸送」というビジネスの一部に変化します。
このように、それまで何も生み出さない消費でしかなかった生活の行動を少し変えることでビジネス化させてしまおう、というのが生活の資本化という考え方です。
著者の例を挙げると、著者はリサイクルショップを経営していました。(現在は他の方へ事業を引き継いだそうです)
しかしリサイクルショップは店としてだけではなく、住居としても利用していたそうです。これによってまず住居費という生活の消費を資本化させました。
さらに、リサイクルショップで仕入れた家電製品などで良いものに関しては店で売らずに自分で使っていたそうです。そしてまた新しい良いものが仕入れられたら古いものは商品としてショップに陳列し、また新しいものを自分で使う。これによって家財の購入・処分という消費行動も見事に資本化に結びつけています。
このようにしょぼい起業とは「今ある生活にプラスαで新しいことをする」というより「今ある生活の一部をビジネス化させる」という思考に基づいており、これによって起業へのハードルやコストを下げることが出来ています。
資金調達はまず「行動して"推される"人になる」
低コストで無理ない範囲でのビジネスを推奨するしょぼい起業ですが、それでも事業を行う場合どうしてもお金は必要になってきます。
そのために銀行へお金を借りに行くのは”しょぼく”ないため、アルバイトなどで少額の貯金を作ることを推奨している本書ですが、アルバイト以外にも「投資家からお金を募る」という方法も紹介しています。
世の中には面白いことをやろうとする若者に投資をしたいお金持ちが多くいるそうです(前澤さんのような?)
そのような人に投資してもらうに最も重要なのは、綿密な事業計画書でも驚くようなビジネスアイディアでもなく「なんかこいつに投資したい」と思わせる雰囲気だと言います。
もっと具体的に言えば「お金を持ち逃げしない」「なんとなく好ましい」「おもしろい」という雰囲気が感じられる人には自然と投資家からお金が集まってくるそうです。
そういった人はつい応援したくなるような、投資家にとっての「推し」になるのだと言います。この「応援したくなる人物を目指せ」という思想はキングコングの西野亮廣さんの主張とも非常に重なる部分があります。
そしてその推しになるためには、本人のキャラクターや誠実さはもちろんありますが、特に重要なのが「まずはやってみる」という行動だと言います。
いくら良いアイディアがあったとしても、それは他の誰かも思いついている場合がほとんどで、アイディアは実現してこそ価値があります。そのことを投資家たちは十分に理解しています。
だからこそ、投資家たちは若者の行動力を見ていると言います。
「こんなアイディアがあるので投資してください!」よりも「このアイディアを実現するためにここまでは作ったのですが、これ以上を作るために投資してください!」のほうが投資家にとっては何倍も"推せる"人材となります。
これ個人的には結構刺さる話でした。まず自分が行動してみて、その上で「ここができないから支援してください!」っていうお願いの仕方のほうがお願いされる側の視点にたてばずっと応援しやすいなぁと考えさせられました。
"正しいやりがい搾取"で店を回す
"やりがい搾取"というと物騒ですが、誰も傷つかず、損をしない上に合理的な主張です。
ビジネスをしていく上で重要な要素の一つが「お金を稼ぎつついかに働かないか」にあると考えます。経営者の時間は未来のビジョンやビジネスの舵取りにかけるべきであって、実作業に割く時間はなるべく削減すべし、というのがビジネスの鉄則のはずです。
そこでこの本が主張しているのが「正しいやりがい搾取」です。
正しいやりがい搾取とは「その人の完全な自由意志によって生まれる手助け」(第一段階)や「こちらの依頼に対して見返りを求められない手助け」(第二段階)が発生する状況を生み出すことにあります。まだ怪しいですね(笑)
一見すると不可解な労働力の搾取に見えますが、これらを発生させることは十分可能です。しょぼい起業ではこの搾取をするための仕組みづくりを推奨しています。
それは信頼関係の構築です。もっと言うと、先にこちら側がGIVEをしておいて、後から相手がついお返しをしたくなるような状況を作っておこう、という主張です。
著者が経営する郊外にあるリサイクルショップでは、常に店を開けておいて、地域の人たちが来たらコーヒーなどを振る舞って雑談をしていたそうです。そして、地域の人たちは商品も買わずに帰っていく。
そんな毎日を続けているとそのリサイクルショップは、中古品販売店という以上に住人にとって「居心地の良い場所」を提供することとなり、住民はGIVEを受け続ける状態となります。
そうなるとどうなるか。お店に通い続け入り浸る住人たちが勝手に店の掃除などをし始めたそうです。これはやりがい搾取の第一段階の自由意志による手助け、です。
心理学的には返報性の法則と言ったりもしますが、人は何かを与えられたと感じたとき、その人に何かを返したいという気持ちが生まれます。正しいやりがい搾取はこのように、先に付加価値(リサイクルショップであればそれ以上のもの、今回は気軽に通える居心地の良い空間)を提供することで住民との信頼関係を構築し、誰も損をしないやりがい搾取をしてしまおう、というものです。
そして、そこからさらに信頼関係が築かれていった頃には著者が少し用事で店を開けている間に住民に店番を任せる、なんてこともできるまでになってしまったそうです。これはただしいやりがい搾取の第二段階で、こちらの依頼に対して見返りを求めない労働をお願いできるという関係性です。
しかし、この"正しいやりがい搾取"は信頼による関係性に基づいたものであるため、その信頼関係の維持へのコストは割かなければなりません。
住民に居心地の良い場所を提供し、ときには地域の清掃活動やお祭りにも参加して絆を深めていく。
でもこれによってお金による打算関係でなく、お互いがそれぞれできることをし合いながら支えあえるエコシステムが実現するというのは非常に素敵な世界観のように感じます。
感想:自分なりの"生活の資本化"してみた
冒頭にも述べましたが、自分はもともと将来は一人で仕事がしたいという思いがあるものの中々踏み出せずにいる中、この本の「起業なんてかんたんだよ」という軽い語り口の内容は非常に刺さりました。
特に今ある生活の中から無理なくお金を稼いでいくという「生活の資本化」という考え方が面白く、色々考えを巡らせるだけで楽しいものでした。
そこでちょっと思いついたのが、Tシャツを作るです。
自分はココナラというサービスを利用してほそぼそとロゴデザイン作成の依頼を受けているのですが、そこで1つの依頼が完了するまでに2~3個ボツデザイン案が生成されます。
提案する際にはどのデザインも「これだ!」と思っているものを出しているため、自分の中でデザイン的な優劣はほとんどなかったりするのですが、(当然ですが)依頼主の一存でどれかが選ばれ、その他は廃案となってしまいます。
その廃案はそのままだと何の価値も産まないものですが、こいつらを少し利用できないかと考えて、廃案になったロゴを使ってTシャツを作ってみることにしました。
ただTシャツを作るだけだとつまらないため、「一見すると普通だけどよくよく見るとダサい」というコンセプトの「ダサいTシャツ屋さん」というオンラインショップを思いつきました。※何言ってるのかよくわからないと思うため下記参照ください。
こんなTシャツ誰が買うのか、と思いつつですが、時代の恩恵を受けてノーリスクでネットショップを開業できる今、打算0でパッションとノリだけで作ってみました。まだ店舗の体裁も整ってないですが、今後徐々にアップデートしていきます。
なんかほぼ宣伝みたいな感想になってしまってごめんなさい、。
でも"起業"って憧れはあるけど難しくて遠い存在、と思いがちでしたが、そんな考えを優しく開放してくれる本でした。
首都圏は今年もGWは自粛ムードですが、この本を読みながら少し自分の現在と未来を見つめ直すのもすごく素敵なのではないかと思います。