"超合理主義ブランディング" 中川淳 「小さな会社の生きる道」
読書メモ#3 です。
中川政七商店をリブランディングにより再起させたことで有名な中川淳さんの著書「小さな会社の生きる道」を読みました。
中川さんは自身で中川政七商店を経営する一方で、地方の中小企業をリブランディングして再起させるブランドコンサルのような(本書では"コンサルではない"といっていましたが、、)こともされており、数々の企業の業績を立て直してきました。本書ではその中で得た知見がまとめられている本です。
なお、この本はエイトブランディングデザインの西澤明洋さんのセミナーでの読書課題にもなっている本なので、受講されている方の参考になれば幸いです。
数字からアプローチする超合理的ブランド戦略
中川さんの企業復活へのアプローチを一言にまとめるなら自分はこのように捉えました。
ブランドというとなんとなくデザイナーとかクリエイティブディレクターのような人が目立つイメージがあったりしますが、中川さん自身がシステムエンジニア出身ということもあり、ブランド戦略をかなりロジカルで合理的なアプローチで行っていく印象を受けました。
企業を立て直す中ではじめに決算書から見るという点も中川さんならではと思いました。
どんなクライアント(企業)もまず「新ブランドを作りたい!」や「新製品を作りたい!」というところに目が行きがちになるそうなのですが(わかる、、)、本当の目的は業績を伸ばして企業を存続させることのはず。新ブランドや新製品はあくまで手段でしかありません。
中川さんは決算書を見て、まずは必要なコストカットや製品の絞り込みなどの施策から立て直しを図っていくそうです。
(そういえば村上ファンドの村上世彰は著書の中で「日本の経営者の多くがろくに決算書を読めない」ということに気づき、物言う投資家となる道を選んだとも書いていました。お金の使われ方や流れを知るという基本から立て直しを図る意義は非常に大きいのだと感じます)
ビジョンが全て
会社のすべての活動の土台となるビジョンのない会社は存在意義がないと言います。ビジョンを掲げ、会社のすべてのリソースがビジョン達成のために活用されなくてはなりません。
ビジョンとは、以下のようなものと説明されています。
自分たちがどうなりたいか(will)、自分たちに何ができるか(can)、自分たちは何をすべきか(must)。この三つが重なり合う部分こそがビジョンになり得る。
ゴールを描く
しかし、ビジョンは往々にしてカタイ言葉になりがちで肝心の社員の行動の動機づけになりづらい面もあります。
それに対して中川さんは「明確なゴールを描いてイメージを共有」することを提唱しています。
その際に「自分にもできそう」とクライアントに思ってもらえるような具体的なイメージである必要があると言います。
ゴールは、遠くにあって見えづらいビジョンを、イメージとして高解像度で見える距離にまで持ってきたようなものだと解釈しました。
そして遠くにある達成すべきビジョンは共通でも、手前にあるゴールは企業内の部署やチームのミッションによって変わってくるものと思います。
そういった「大きなビジョン」を目に見える範囲にまで落とした「ゴール」の設定は様々な場面で意識的に行うべきアクションだなぁと感じました。
戦略を練りあげ、それを成果が出るまで貫く
ビジョンが決まり、ゴールの設定によって描きたい未来の姿が明確になったら次は具体的な戦略をじっくりと時間をかけて練り上げます。
この練り上げた戦略において大事なのは「1度決めたことは成果が出るまで貫くこと」と言います。
戦略を遂行しても結果が出ないもどかしさから、クライアントが中川さんに向けて戦略の変更を申し出ることが多くあったそうです。
しかし、本書ではそのような申し出は以下のようにバッサリ切り捨てています。
戦略が正しければ、粘り強くやっていくことで、いずれ必ず成果は出る。しかし、そこで戦略を変えてしまえば永遠に成果は生まれない。
年間スケジュールを守る
これは個人的に耳が痛くなりました。
戦略を進める中で年間スケジュールを守ることは必須と言います。具体的には「毎年同じ月に新製品をリリースしてデータを蓄積させること」とのこと。これを多くの企業ができていないそう。
毎年異なるシーズンにバラバラに新製品を出していたのでは正確なデータは取れません。新製品と過去の製品を正確に比較できるデータを作るには、毎年同時期リリースできる工程を組み、それを死守すべきだと言います。
ブランドとマーケティングの違い
この説明が個人的にわかりやすかったので、ここだけ内容の毛色が違いますがまとめたいと思いました。
上記の違いを本書では以下のようにまとめていました。
マーケティング=市場起点
ブランディング=自分起点
マーケティングは市場を分析して穴(ブルーオーシャン)を探してポジションを取る方法論。
それに対してブランディングは自分たちが何をやりたいかを考えて、その後で市場における自分たちのポジションを認識するものだと言います。
そして中小企業においては方法論としてブランディングのほうが合っていると言います。理由としては以下の2点が挙げられていました。
1.お金をかけることができないため高度な市場分析ができない
2.それほど大きなポジション(=売上規模)を取る必要がない
感想:ブランディングもビジネス、数字ダイジ
同じブランディングを生業とする人間でも、デザイナーはこの中川さんのようなアプローチは苦手だったり懸念したりする部分が多いのではないかと思います。
デザイナー(少なくとも自分)だったらどうしても「どんな世界観を表現したいか」とか「どんなキレイなビジュアルを作ってやるか」みたいな部分に思考が行きがちですが、ブランディングと言えど最終目標はそのビジネスの成功にあるはず。
そのためデザイナーも数字を理解し、そこから戦略を練られるようなスキルが必要なのだと感じました。(Takram的に言うと佐々木さんのような「ビジネスデザイナー」みたいな肩書になるのかもしれませんが)
勉強すべきことはまだまだ山ほどあるなぁと思わせてくれる1冊でした。