ヘンボカセヨ!(幸せにね!)
チベット・インド旅行記
#7, 「ソウル」
【前回までの旅の道のり】
ベランダの窓から差し込む眩しい陽の光にうっすらと目を開ける。
ふと時計を見やると午前10時を過ぎている。
しまった、もうこんな時間か。
ソファーから身を起こし、大きく伸びをしてから台所で水を飲むと、玄関ドアを開けてソウルの市街地へと向かう。
韓国の首都ソウルに到着してからはや1週間。
ソウルの大学に通う大学生、ルーシーのマンションに転がり込んだ私は、ふかふかのソファーと快適な室内に慣れ、すっかり腑抜けになっていた。
ソウルの街は高層ビルが立ち並ぶ大都会で、車やバスがひっきりなしに行き交い、さすが首都という感じ。
大通りのバスストップから路線バスに乗り込み、のんびりと街並みを見て回った。
定食屋、土産物屋、民芸品屋などがずらりと並ぶ国際通りでは、韓国らしさを残そうと、ファミレスなどのチェーン店は置かず、あえて個人経営の店をテナントに入れているらしい、スタバの看板もハングル語に変わっている。
東大門(トンデムン)は市場やマーケットが並ぶ賑やかな通りで、掘り出し物の雑貨を探してブラブラ歩くのが楽しい。
※ 同じく観光スポットで南大門(ナンデムン)という場所もあるが、こちらは日本語ペラペラな客引きのおばちゃんが多くて疲れてしまうので、東大門がおすすめ。
広々とした緑地や並木道が続くマロニエ公園は、トランペットやジャンベなど、楽器を練習する若者も多い、都心の憩いのスポット。
今日も街を歩き、ウィンドウショッピングをし、スタバでまったりして、その後楽器の練習。
つまりはダラダラしているだけの毎日。
ダラダラしている内に夕方になり、ルーシーが大学から帰って来た。
「ユーキ!ただいま!今日はこれからどこに行こうか?そうだ、一緒にライブを観に行こうか!」
ルーシーと再び夜の街へとくり出す。
車が行き交い、雑居ビルが並び、ネオンが輝く街。
見上げる景色は、心なしか東京と似ているようにも見えた。
バスを乗り継いでホンデ大学という所に来た。
この辺りの地区は大学が多くて、若者たちのカルチャーが盛んな所なのだそうだ。
確かに、通りにはオシャレな古着屋やレコード屋が並び、若者たちが楽しそうに路上を歩いている。
日本でいう所の、下北沢とか吉祥寺に雰囲気が近いかもしれない。
ルーシーと洒落たライブバーに入り、ジャズバンドの演奏を聴きながらビールで乾杯した。
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翌日はルーシーと中国の大使館に行って、次の目的地である中国のビザを申請しに行った。
さすが現地の人が一緒だと話が早い。窓口でもスムーズに手続きが済んで、あっという間にパスポートにスタンプを押してもらった。
中国滞在のビザ1ヶ月分、締めて3500円なり。
そんな風にルーシーはソウル市内の色々な所へ私を連れて行ってくれて。
(韓国の昔のお城や、同人誌の即売場など)
毎日とっても楽しかったのだが、楽しければ楽しいほどに、果たしてこれは旅なのだろうか?と疑問も感じるようになって来た。
また、ルーシーと2人、一つ屋根の下で過ごしていたのもよくなかった。
友達とはいえ、やはり男と女。
一緒にキッチンでカレーを作ったり、リビングでソファーに並んで座って映画を見ていたりすると、不意に男女の空気に変わってしまう事があって、どうしていいものか、お互いどぎまぎしてしまったり。
私はいつも、リビングのソファーで寝て、ルーシーは頭上のロフトベッドで寝ていたのだが、夜、しんと静まり返ると、お互いの息遣いや寝返りの音まで聞こえてしまって、なかなか寝付けなかったり。
しかも、ルーシーが事あるごとに女友達をマンションに連れて来て、私を紹介するのにも辟易した。
「ねーねー、ルーシー、彼ってルーシーの彼氏?」
「やーだー、違うわよ。友達よ〜、と・も・だ・ち。」
そんなやりとりをハングル語でしている(ような気がして)、なぜかムスッとしてしまって。
「ユーキー、ユーキー、ハングル語喋ってよ〜」
「アニ!(やだ)アニヨ!(やだよ)」
とスネてしまったり。
段々とルーシーと一緒にいるのがしんどくなって来た私は、ある日ルーシーに言って、1人で旅に出る事にした。
ソウルからバスに乗り、江華島(カンファド)という街へ。そこからさらにフェリーに乗り、席毛島(ソンモ島)へやって来た。
ソンモ島は、人気のない田んぼの多い綺麗な所で、延々と続く田舎道を日が暮れるまで歩き、見晴らしの良い岬で夜をあかした。
久しぶりの野宿。
遠くの水平線にはイカ釣り漁船の明かりがポツポツと灯っている。
寂しいような、わびしいような景色。
一体、自分はなぜここにいるのか。
なぜ、旅を続けているのか。
いや、違う。
なぜここに存在しているのか。
しんと静まり返った静寂が、心の奥で反響している。
何千年も前から繰り返されて来た、答えの出ない問い。
そうだな、旅だよな。
旅をしないと…。
そろそろ韓国を出る時が来たのかもしれない。
そんな風に思った。
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ソウルに戻り、ルーシーに出発する旨を伝えると、一緒に駅のプラットホームまで見送りに来てくれた。
「ユーキ、チベットに着いたらメールしてね。」
「オフコース!写真送るから待っててね。」
「今度は私が日本行く番だね、日本ではユーキが私の事案内してね。」
「うん、色々な所行こうね。」
「ユーキ、私たち、またいつか会えるかな。」
「ケンチャナヨ〜。(大丈夫だよ〜)」
「ユーキ…」
「ルーシー…」
プラットフォームに、列車到着のアナウンスが流れる。
別れの時が近づく。
固く握手をする2人。
「ユーキ…、ユーアー、バッドボーイ…、ベリーバッドボーイだぞ…。」
「ルーシー…」
…
…
「…ユーキ、旅、頑張ってね。またいつか会おうね!、ヘンボカセヨ!(幸せにね)」
「ルーシー、ありがとう!、ヘンボカセヨ!」
そうしてやって来た電車に乗り込み、港へと向かった。
インチョン(仁川)の港から中国は大連行きの船に乗る。
汽笛を鳴らして船は出ていく、次の目的地に向けて。
私はフェリーの甲板に立って、遠く離れていく韓国の地を、いつまでも眺めていた。
出会いと、別れと、少しばかりの名残惜しさを残して、
今日も旅は続いていく。
(中国編へ続く)
【チベット・インド旅行記】#6,チェジュ島編はこちら!
【チベット・インド旅行記】#8,大連編はこちら!
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