チベット・インド旅行記『韓国編』
チベット・インド旅行記
#5, 「釜山」
【前回までのあらすじ】
遥か遠く世界の秘境チベットを目指す為、埼玉県からヒッチハイクで旅をはじめたまえだゆうき。
出発から1ヶ月が過ぎた今、ようやく海を越え、韓国の地へと降り立っていた。
「クレソ?」
(それで?)
「チョーヌン、ゴンウォン…、カッソヨ…」
(私は公園に行きました)
クククク…。と笑いをこらえるルーシー。
周りの店員もチラチラとこっちを見ている。
「クレソ?、クレソ?」
(それで?)
「アジョッシ…、イッソヨ…」
(そこにはおじさんがいました)
カチャン。
思わず、サムゲタン(参鶏湯)を食べていたレンゲをお盆に下ろし、必死で笑いをこらえるルーシー。
すかさず、身振り手振りで説明する。
「アジョッシ、ベリーベリー、ストロング、ベリーストロング!」
(とてもとても強いおじさんでした!)
「あーっはっはっはっは!ちょっと待って、待って!」
「ユーキーチョアヨ〜!、ハングゴ、テダネヨ〜!」
(ユーキいつの間に、そんなにハングル語覚えたの〜!?)
ここは、韓国の首都、ソウル市内の定食屋。
今日は全国的なサムゲタンの日らしく、ルーシーと私は、一緒に熱々のサムゲタンを食べていた。
目の前で大爆笑をしているのは、友達のルーシー(英語名)、本名はイム・キョンへーちゃん。
丸いメガネの下には優しそうなたれ目と、ふわふわの髪型。
おしとやかな雰囲気が漂う、清楚な女の子だ。
今はソウル市内の大学に通っているらしい。
ルーシーは、私が以前スコットランドに語学留学した時に知り合った友達で、かれこれ1年ぶりくらいの再会になる。
久しぶりにあった友達が、でっかいリュックサック背負って、ヒゲボーボーに生やして、怪しげなカタコトハングル語を喋るものだから、すっかりツボにはまってしまったらしい。
ご存知の方もいるかもしれないが。
日本語と韓国語は文法が同じで、単語も発音が似ているものが多いので、
(無理=ムリエヨ、砂漠=サマク、)
びっくりするぐらい簡単に喋れるようになる。
福岡を出港してから2週間、ソウルに着く頃には、それなりに現地の人とも意思疎通が出来るようになっていた。
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さて、時間を遡ること2週間前。
福岡を出発した高速艇ビートルは、数時間をかけて韓国の海の玄関口、釜山(プサン)に到着していた。
いよいよ日本を離れ、本格的な旅のスタートだ。
季節は初夏、旅をするにはもってこいの時期である。
簡単なパスポートのチェックを終えてゲートを潜ると、そこは釜山の街。
小高い山々と海に囲まれた、いかにも港町といった雰囲気、海風が気持ちいい。
市内に出ると、ハングル語の看板、看板。文字が読めないので、適当にブラブラと散歩する。
街は栄えていて、日本の地方都市と風景は似ている、交差点、ビル街、歩道に街路樹。
ところが一本脇道に逸れると、ビルとビルの間の細い通りの両側に、山積みになった白菜や、キムチ、味噌、佃煮、キムパ(韓国風海苔巻き)やトッポギなどを売る屋台がずらり連なっている。
路上の市場の風景だ。
キムチや白菜のすえた匂いが、ツーンと漂ってくる。
そんな生の匂いを胸いっぱい吸い込んで、心の中でガッツポーズ。
とうとう旅が始まった!
そんな感情がメラメラと湧いてきた。
お腹が空いたので、こじんまりした定食屋に入ると、サザエさんみたいな髪型したおばちゃんがやってきた。
言葉が分からないので、「ペゴパ〜ペゴパ〜(腹減った〜)」と連呼していると。
「チゲ!チゲ!」と、スープやら、おかずやら、キムチやら、たらふく持ってきてくれた。
おばちゃん、食べても食べてもおかわりを持ってきてくれる。
(後に知ったが、韓国では客人をもてなす時に、わざと残せるぐらいの、多めの量の料理を出すのが礼儀らしい。)
釜山について早々、お腹いっぱいで動けなくなってしまった。
締めて3千ウォン(約300円)
「オモニ〜、マシッソヨ〜!(お母ちゃん、おいしかったよ〜)」
韓国の方が、日本に比べて物価が安く、定食300〜400円、アイス50円、散髪800円、ギターの弦600円ほど。
(2004年のデータ)
ただ、物価が安いとはいえ宿泊費はドミトリー(相部屋)でも千円するので、韓国ではいつも通り野宿スタイルで頑張ることにする。
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流石に釜山は都会すぎて野宿できないので、地下鉄で郊外まで出て野宿ポイントを探す。
駅から徒歩で歩く事しばらく。
ありましたありました、ゴンウォン(公園)
日本の公園と比べても遜色がない、綺麗な公園だ。
ベンチもあるし、水場もある。
心が躍る。
近場のスーパーで辛ラーメンのパック買ってきて、鍋で湯を沸かして食べる。
国が変わっても、人間やる事に変わりなし。
日が暮れて寝袋を用意してのんびりギターの練習をしていると、不意に背後から声がした。
振り返ると、むすっと口をへのじに曲げた、頑固そうなおっちゃんが立っている。
日焼けした肌と、深い皺。
「おい!こんなところで何をやっているんだ」
(韓国語分からないので、あくまでも想像です)
「えーっと…、チョーヌン、イルボーニン、イムニダ。」
(私は日本人です)
「何っ!日本人だって!?一体ここで何してるんだ!?学校は!?親は!?」
私が日本人だと知っても、お構いなしにハングル語でまくし立てるおっちゃん。
訳も分からずにウンウンうなずいていると、おっちゃん「来い、来い。」と手招きを始めた。
どうやら、私をどこかに連れて行きたいらしい。
公園に荷物を置いて、おっちゃんの後をついて行くことにした。
おっちゃんの後をついて通りを歩くこと数分。
街灯が薄暗く灯る、さびれた商店街に着いた。
ハングル語で読めないが、アーケードの入り口の文字はきっと、「〇〇銀座」と書かれているに違いない。
夜9時も過ぎて、どの店もシャッターがおりている。
商店街の中ほど、地下へと降りる階段を指差して、「ここだ。」とジェスチャー。
ネオンがパチパチと、ついたり消えたりしている。
おっちゃんの後をついて、地下への階段を降り、扉を開くと、そこには昭和を感じさせる場末のスナックがあった。
薄暗い店内、コメダ珈琲で使ってそうなレトロなチェア、バーカウンターには厚化粧のママ。
「あ〜らいらっしゃい、後ろの子はだあれ?」
(あくまでも想像です)
「すごいだろ!さっき公園で見つけてきたんだ」
まるで、雑木林ででかいカブトムシを捕まえたかのような、得意気な顔のおっちゃん。
「まぁ、飲め。」と水割りを2つ頼んで、私にもよこしてくれた。
「カムサムニダ」
おっちゃん、1杯、2杯と飲んでいるうちに気分が良くなってきて、おもむろにカラオケボックスに曲を入れて歌い始める。
こぶしの効いた演歌調の歌。
「アジョッシ〜、チョアヨ〜」
(おじさん、イイよ〜)
私とママで拍手。
ちょっと照れながらもグイッとマイクを私によこしてきた。
「さぁ、次はお前の番だ。」
お前の番だと言われても、困った。
カラオケの本をめくっても、ちんぷんかんぷんで読めない。
私もおっちゃんも困り果てていると、ママが手を叩いて言った。
「オー!シマウタ、アラヨ?」
「シマウタ…?」
「しまうた…?」
「(もしかして)島唄?」
「オーイエス!島唄!」
なんとびっくり!私の知らない間に、島唄よ風に乗り、こんな所まで来ていたとは!
喜び勇んで島唄のナンバーを入力するおっちゃん。
ママの機転のお陰で、カラオケボックスから聴き覚えのあるメロディーが流れてきた。
前奏が終わり、ハングル語の歌詞が現れる。
せーの…
「でいご〜の花が咲き〜♪」
「オー!チョアヨ〜!シマウタ、チョアヨ〜!」
本場(?)の島唄を聴いて、大喜びのおっちゃんとママ。
謎の感動と一体感が、場末のスナックを包み込んだ。
歌い終え、おっちゃんと固い握手を交わし、心の中でTHE BOOMに感謝した。
そうして夜も更ける頃、おっちゃんとママに別れを告げて、元の公園に戻ってきた。
緊張が解け、どっと疲れて寝袋に倒れ込む。
いや〜、それにしても強烈なアジョッシ(おっちゃん)だった。
日本を旅していても、韓国を旅していても、腹が減る事と、おっちゃんにからまれる事だけは世界共通。
うとうととまどろみながら、今日学んだ事を心にしっかりと刻み付けた。
明日は一体、どこへ行くのやら。
つづく
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